半夏生: 東京湾臨海署安積班 (ハルキ文庫 こ 3-25)

著者 :
  • 角川春樹事務所 (2009年2月1日発売)
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バイオテロか、はたまたただのインフルエンザか !?

家族を残して家出同然の中年男が偶然介抱したアラブ系外国人が死に至り、この現場に駆け付けた臨海署の白バイ隊員と黒木も発症。中年男はお台場をさまよううち、若者グループと傷害沙汰を起こし逃走するも、自らも感染しているためかその足取りは重く、ついには身柄を取り押さえられる結果に。

アラブ系外国人が身元不明であったため、バイオテロ疑惑が浮上し公安が臨海署に乗り込み、さらに政府ではテロ対策本部が設置される事態に、と、本作は刑事事件が起きたわけではなく、国際テロの疑いがある事案を軸とした、これまでのシリーズとは異色の展開です。

個人的には逃走を続ける原田(家出した中年男)目線の心境の変化に感情移入してしまいました。みるみるうちに悪い状況に陥り、おまけに訳のわからないウイルスに感染しているかも、という人生でそうそうないほどの絶望の淵に追いやられます。でも人も殺していない、感染もしていない(結果、ただのインフルエンザ)、さらには見捨てられたと思っていた家族が自分の捜索願いを出していたということがわかり、まるでジェットコースター並み、まさに地獄から天国といった状況。長い長いトンネルから抜け出て、本人としても一気に目の前が明るくなったことでしょう。

安積班はというと、テロのための対策に振り回されながらも、須田の活躍もあってだんだんとコトの真相に気づき始めます。対策本部を設置した手前、引くに引けない「国」と現実を見据える臨海署の面々の目線の違いも読みどころといえるでしょう。物語の終盤、これはただのインフルエンザであるとわかりはじめた後の国の姿勢はある意味滑稽にも見えます。

ただ、一方では昨今のコロナ対策では、もっと早く対策していれば、などなど今にして思えば、という点がないわけではありません。そう考えると、多少滑稽に映ろうがなんだろうが正常性バイアスに囚われず、最大リスクを見積もって行動することの重要性も理解はできます。が、本作において見積もられた最大リスクは、物語向けだからでしょう、ちょっと大げさだったかもしれません(現実にはもう少しシビアな見極めがなされることを政府には期待します、いやコロナの対応を見ているとちょっと難しいかな…)。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年11月9日
読了日 : 2020年11月6日
本棚登録日 : 2020年11月5日

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