風に舞いあがるビニールシート

著者 :
  • 文藝春秋 (2006年5月31日発売)
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本棚登録 : 2986
感想 : 575
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生き方を考えさせられる本。6本の短編が収録されている。どれもいい話である。忘れていた感情や忘れてはいけない気持ちに気がつかせてくれる。表題作の「風に舞い上がるビニールシート」は2006年上半期の直木賞受賞作品。この作品は自分の心をえぐるように入ってくる作品。愉快に読める話ではないが、作品としてすばらしい。この他に気に入った作品は「犬の散歩」「守護神」「ジェネレーションX」。自分の生き方について考えさせられる。

以下、個別作品の感想。

◎器を探して
私がよく知る岐阜県多治見市での器探しの物語。スイーツを撮影するために、それを乗せる器を探す。クリスマスイブに東京から出張を命ぜられ、恋人との重要な約束を果たせなくなってしまう。シチュエーションだけでもドキドキしながら読める。そして、スイーツに映える器に出会うまでの話は、新しい恋人を見つけるかのよう。偶然の出会いが必然と思ってしまうのは、器探しが恋愛と同じであることを暗に示している。結末はもう少し先まで物語を進めてもよかったのではないかと思う。前菜だけ食べて終わったみたいな感じだ。そこだけが物足りないところ。

◎犬の散歩
えぇ話や。読んでいて涙が出そうになった。犬を飼っている人ならこうなってしまう気持ちを理解してもらえるだろう。ええ話である。

◎守護神
最後の方で明らかになる登場人物の背後にあるストーリーに瞠目した。格好いい生き方だなあと。元気をもらえた。これもええ話である。

◎鐘の音
不空羂索(ふくうけんじゃく)という仏像と交わるシーンが印象的な物語。

◎ジェネレーションX
石津の生き方が格好いい。格好悪いように見えるけど格好いい。

◎風に舞い上がるビニールシート
風に舞い上がるビニールシートはどこかに飛んでいって消えてしまう命を表現している。地球上にははかなく奪われる命が、今もどこかで散っている。誰かかがその命をきちんと見なければいけない。誰かがその命が飛ばないように押さえないといけない。難民を救う仕事に携わる命のストーリー。心をえぐられたような読後感だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文芸
感想投稿日 : 2016年1月27日
読了日 : 2016年1月18日
本棚登録日 : 2015年12月19日

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