壬生義士伝 下 (文春文庫 あ 39-3)

著者 :
  • 文藝春秋 (2002年9月3日発売)
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【感想】
自分が想定していた感動のレベルを、大幅に超えてきた。物語の後半からは、感動する感情が十重二十重と幾重にも重なり、身動きが出来ず苦しくなるほど感動した。本気で家族を愛することを、体感を持って教えてくれる本当に素晴らしい本だった。実は小説を読んでも、ほぼ涙をこぼさないこの僕が、かなり珍しく涙をこぼしてしまった。涙を止めようとしても、直に心に訴えかけてくる。感情を抑えようとしても、抗えず感情がとめど無く溢れてくる。この「壬生義士伝」は、人間の奥底にある感情を、揺り動かし続ける傑作だと感じた。

ネタバレになってしまうので、内容は書けないが、下巻の264ページを読んで、感情を揺り動かされない日本人は、果たしているのだろうか?そう感じてしまうほど、心が激しく揺り動かされるシーンだ。またこの264ページ以降は、エンディングに至るまで、ほぼノンストップで新たな真相が明らかにされ、新鮮な感動が途切れることなく続く。最後の約200ページは、涙もろい人であれば、恐らく最後までずっと泣き続けるほどの感動の波が、途切れることなく押し寄せてくる。

あらすじは以下となる。

小雪舞う一月夜更け、大坂・南部藩蔵屋敷に、満身創痍の侍がたどり着いた。貧しさから南部藩を脱藩し、壬生浪(みぶろ)と呼ばれた新選組に入隊した吉村貫一郎であった。“人斬り貫一“と恐れられ、妻子への仕送りのため守銭奴と蔑まれても、飢えたものには握り飯を施す男。元新選組隊士や教え子が語る非業の隊士の生涯を描く。

浅田次郎氏は、物語の構成が巧みだなぁと心の底から感じた。基本的な物語の構成は、記者が吉村貫一郎の人物像を知るべく、昔新選組隊士だった人物をインタビューして訪ねていく構成だ。色々な人物に話を聞くが、実は最初の頃は、あまり良い話は出てこない。それどころか、出稼ぎ浪人や守銭奴と罵られ、最低な人物像からスタートする。そう、最初が最低のラインからスタートするのが巧いなぁと感じた。なぜなら後は、評価が上昇することしか出来ないのだから。二人、三人と元新選組隊士から話を聞けば聞くほど、良い話が徐々に浮かび上がってくる。そして、なぜ脱藩までしないといなかったのかの真相に辿り着いたときには、感動と共に深く納得も出来た。

浅田次郎氏は、あくまでも徐々に主人公の評価を上げていくのが、とても自然でわざとらしくなく、そこが非常に技巧派のテクニックを感じさせてくれた。おそらく、今村翔吾氏が教科書と表現し、手本にすべきと思ったのも、物語の構成の部分なんじゃないかなと、僕は勝手に感じた。

人を心から愛するとは、まさしくこの吉村貫一郎の生き様のことをことを言うんだろうと思った。今回浅田次郎氏から色々と学ばせて貰ったのと同時に、愛について少し思考してみたくなった。今ある積読本をある程度消化出来れば、エーリッヒ・フロムの「愛するということ」を、思考しながら読んでみたくなった。

本当の小説の名作って、読了した際に感動するだけではなく、そのあと時間が経っても、そのテーマについて深く思考できる小説が、本当の名作だよなぁと思う。そういう意味でいうと、その小説をトリガーにして、哲学本を読もうと思わせてくれる小説は、僕はかなり貴重だと思うし、名作だと思う。

僕が生涯でもっとも感銘を受けた小説は、間違いなくドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」だ。それは今でも変わらない。だが、現役の日本人作家で、最も感銘を受けた小説は本書である。それほど本書は、僕にとって素晴らしい作品であった。今村翔吾氏が、小説を書く際の教科書にしているというエピソードは、誇張ではなく本当なんだというのが、本書を読んで肌感覚として納得できた。

【雑感】
次は同じ新選組繋がりで、司馬遼太郎氏の「燃えよ剣」を読みます。この本もなんだかんだで、半年ほど積読本になっていた本です。読むタイミングとしては、「壬生義士伝」を読み終わった、このタイミング以外に良いタイミングもないだろうと思ったので、ここで一気に読んでしまいます。まぁ、読む前から名作であることは知っているのですが、なぜか積読本になってました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年7月17日
読了日 : 2023年7月17日
本棚登録日 : 2023年1月30日

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