失業したその日に、とびきり美味しいたい焼き屋を営む“真っ直ぐな感じ”の女性、こよみに出会った行助。
やがて言葉を交わすまでになったふたり。
しかし、こよみが事故に遭い…
…などというあらすじは、もういいことにしよう。
とにかく手に取って、紙の厚みや、頁の余白をたのしみながら、読んでしまおう。
生まれつきの障害を持つ故に、あきらめを知っている行助。
初めて出会った時から、そのことを行助のなかに見てとるこよみ。
毎朝毎朝、事故の前までの記憶しかないところから再スタートしても、こよみは行助を受け入れてその日一日をあたらしく始めるのだろう。
記憶が積み重ならなくても、その人の在り方は、変わらないものなのかもしれない。
記憶がなくても一日経てば一日老いることから逃れられないように、その人の生きた記憶は、身体や五感に何かが刻まれていくのかもしれない。
“僕の世界にこよみさんがいて、こよみさんの世界には僕が住んでいる。ふたつの世界は少し重なっている。それで、じゅうぶんだ。”
素晴らしい、最後のフレーズ。
生活を共にしたりメールしあったり、多くの部分が重なっているのに気持ちが伝わらず、不満がつのったりぶつかりあったり…
現実の私の図々しいというか、貪欲というか。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
国内作家
- 感想投稿日 : 2020年8月23日
- 読了日 : 2020年8月22日
- 本棚登録日 : 2016年12月12日
みんなの感想をみる