「リベラル保守」宣言 (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2015年12月23日発売)
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感想 : 22
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中島岳志という人を知ったのは、たぶん12年くらい前。おそらく論壇に出始めた頃だと思う。自分と大して年齢の違わない人が活躍し始めていることに軽い驚きを感じた記憶がある。その後も、どんどん気鋭の論客として名を上げていくさまをどことなく意識していたのだが、著作を読んだのはこれが初めて。
保守とは本来何ものなのかを非常にわかりやすく、そして説得力をもって論じている。こんなに読みやすいとは思わなかった。
わりと最初のうちに保守の定義が示される。曰く「保守は特定の人間によって構想された政治イデオロギーよりも、歴史の風雪に耐えた制度や良識に依拠し、理性を超えた宗教的価値を重視します」(p.37)ということで、決して懐古主義、復古主義ではないことが繰り返し述べられる。こうした論に照らせば、「保守」とされている現在の安倍政権のやっていることには首を傾げたくなることばかり。実際には、主義に従って為政をとるわけでもないのだからずれは仕方ないのかもしれないが、主義という芯がないのは危ういことだろう。
一方、左派についても、その成り立ちや本義に照らすと、フランス革命は個人主義しか認めようとせず、市民団体や協同組合のような思想・活動も排斥していたとか、人間の力を信じ進歩を是とする本義に照らせば、原発を推進せざるをえないといった吉本隆明の論なども紹介される。
私は、「自由」に高い価値を置いているつもりのわりに、頭が硬いというか、慎重だったり手放しに新しいものをよしとできないと自認し引け目を感じていたのだけど、ある意味、そうした自分の心の向き様がそれでいいのだと思うことができた。
タイトルは「リベラル保守」などと保守の亜流や新派のような印象も与えかねないが、むしろ、保守本流のあり方を説明している傑作。出版までの顛末が書かれている書籍版あとがきがこれまた本編と並ぶほどに面白い。NTTは民営化して30年がたとうとしているのにいまだに公器だと思っているらしい。新潮社はうまく漁夫の利を得たなという感じ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年6月5日
読了日 : 2016年5月24日
本棚登録日 : 2016年5月24日

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