蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1968年11月19日発売)
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3

学生時代の教科書で読んだきりの芥川
実家の父の書棚にいくつかあったのを拝借


■蜘蛛の糸
お釈迦様のいる極楽の美しさ、穏やかさと地獄の暗さ、絶望のコントラストがいいですね
子供の頃はそんなことより、人を蹴落として自分だけが助かろうとするとバチが当たるんだと教訓めいた読み方しか出来なかった
大人になると、さてこれは自分ならどうするよ?
となる
うんうん考えてみたが、とりあえず誰にも追いつかれないようにダッシュで糸を登ってみる…という何とも器の小さい結論に
大した人間じゃないことがバレます

■犬と笛
植物、動物すべての生命体を魅了し、神から褒美まで貰える笛を奏でる主人公
どんな音色かぜひとも聞いてみたいものだ
まさに芸は身を助ける
最後に二人の姫のどちらと結婚したのか気になるなぁ
だってこれって一波乱ありそうじゃないですか(笑)

■蜜柑
短いながらも見事に映像化される作品
主人公の疲れ切った倦怠感とうんざりする平凡な日常
そこに現れた嫌悪感を抱かせる少女
ザラっとした男の心が爽やかな旋風が吹き飛ばされ、美しい情景に変わる鮮やかな筆術

■魔術
凄い魔術を扱うインド人の不思議な館で人の欲深さが試される
この不思議な雰囲気のある館が気になり、妄想が止まらない
妄想→古くて埃っぽくて暗い よくわからない調度品が無秩序に配置されている
微かにエスニックなお香の香りが漂う
出されたティーカップは古くて茶渋がこびりついている
ティーソーサーは少し欠けている………なんて感じ
そしてジンが登場
どうやら芥川は「アラビアンナイト」の翻訳を試みた事があるようだ

■杜子春
舞台は唐の都洛陽
主人公杜子春はお金のある贅沢な暮らしと無一文の暮らしを仙人に操られ、人間に愛想を尽かす
そして仙人の弟子になるのだが…
この修行により人間らしい正直な暮らしに目覚める…
この修行がなかなかのものでちょっと杜子春を見直した
ようやく彼は大切なものに気づいたのだ
大切なことは目立たなくて案外近くにあるってやつですな

■アグニの神
上海が舞台
強欲な魔法使いのインド人老婆
その婆さんの元に香港の日本領事館の娘が拉致られている
救世主はピストルを所持している遠藤という日本人
いつも婆さんが魔法を使うときに呼び出すのがアグニの神
最後はこの神の怒りに触れお陀仏になるのだが…
これはよくわからなかったなぁ
内容はともかく、「杜子春」の華やかだが柔らかい雰囲気の都、洛陽とこの華やかだが下世話な感じの上海の雰囲気がそれぞれしっかり浮かび上がる

■トロッコ
もうこれは誰しもが味わったことのある酸っぱ苦い思い出だ
それを思い出す大人の疲れた、特に明るい未来があるかわからない先の見えないような日常が重なる…
という描写

個人的にはこの「あるある体験」の生々しい少年の感情が鮮明で悪くない

■仙人
うわー
これまた強欲な人間の登場
えげつないわ この医者夫人のおばさん
でも正義は勝つのです
ああ、良かった!

■猿蟹合戦
なんとまぁ「猿蟹合戦」のその後の話
猿と仕留めた蟹たちは警察に捕まり、監獄に投ぜられ、主犯格の蟹は死刑に
社会の風刺を取り入れて面白く話を展開させて膨らませているパロディ作品なのだろう
面白さが全く理解できなかったが…

■白
罪を冒した犬が命をかけて(本心は生きる事を諦めて)罪滅ぼしをしていく
これが最後に報われる
こういう話は子供の情操教育にとても良さそう
複雑さやヒネリはないが、素直に読めて心が洗われる
個人的に好きである


道徳や哲学が散りばめられており、とにかく全ての作品に余韻があり、読書後暫く考えさせられる
映像描写の素晴らしさと奥行き感が見事である
ただ、好みではないなぁ
うーん
ワタクシの情緒が欠落しているのでしょう
まぁ正直になることは大切なはず…

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月6日
読了日 : 2022年3月10日
本棚登録日 : 2022年2月26日

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