カラマーゾフの兄弟〈下〉 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1978年7月20日発売)
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本棚登録 : 5401
感想 : 364
4


とうとう下巻である

注)軽くネタバレ有


これまたアクの強いコーリャ少年の新登場
自尊心が強く、知性はあるものの突拍子もないふるまいをしたりと、度の過ぎたブラックユーモアを好む傾向にある
またことさらクールにみせたり、マウント取りに行ったり、知ったかぶりしたり、大人をからかったり馬鹿にしたりさえする
…と、まぁハッキリ言えば子供らしさを欠いたかわいくないガキだ

元二等大尉(以前カラマーゾフ長男ミーチャが大衆の面前で、腹を立て引き回すなどの暴行を加えた)のスネギリョフの息子のイリューシャ君
上巻でのイリューシャ君は父のスネギリョフの「仇をとるんだぁ!」と一人で悔し涙をこらえて頑張っていた少年だ
コーリャ少年との関係は、イリューシャ君はどうもコーリャ少年にとても憧れているようだ
が、コーリャ少年は持ち前の嫌らしさでイリューシャ君を教育という名の「シカト」みたいな態度を取ったり、複雑奇怪な行動をとり、とうとう父親を「ヘチマ」とからかわれたイリューシャ君がキレてしまいアリョー少年にペンナイフで脚を刺してしまうのだった
そしてイシューシャ君は結核で残念ながらもう先は長くない

そして一筋縄でいかないコーリャ少年はカラマーゾフ三男の好青年アリョーシャのみを慕っているみたいだ(みんな大好きアリョーシャ君)
というわけでアリョーシャはイリューシャ君のお見舞いにコーリャ少年らと一緒に行くのであった
(またこの厄介な少年に対してアリョーシャが大人で善良な立派な態度をみせるのだ 決して卑屈にならず遣り込めるわけでもなく上手に少年の心を導こうとする)

ここはイリューシャ君の悲しい死と絶望を通して、コーリャ少年の成長、父スネギリョフら人間臭さがガッツリ描写されている
コーリャ少年は子供らしさを少し取り戻せた
そしてアリョーシャは少年たちに別れを告げ、イリューシャ君が葬られる石のそばで少年らにお互いのこととこの日のこと、イリューシャ君のことを忘れずにいよう…と熱く語る
そうアリョーシャは彼らのためだけではなく、自分の悪い部分を牽制するために、この純粋な皆の気持ちを忘れないでいたいと切望するのであった

一方、上中巻でアリョーシャと両想い(うーんまだ正式な恋人なのか微妙な関係なので…)の足の不自由で小悪魔的な少女リーザ
彼女はかなり情緒不安定だが、なかなか頭の良い少女だ
個人的にリーザは好きだが、アリョーシャがなぜリーザを気に入っているのかはちょっとよくわからない
ここでのリーザは病的な負のエネルギーが炸裂する
家に火をつけたい欲求やみんながどれだけ貧乏でもアイスクリームは誰にもあげない意地の悪さ(笑)
悪事の限りをつくしたい!人間は犯罪が好きなのよ!
そう言ったかと思うと、アリョーシャに救いを求め、自殺してしまいそう!と訴えるリーザ
そんなリーザに理解を寄せるアリョーシャ
そしてリーザの悪魔の夢の話を聞き、自分も同じ夢を見るという
アリョーシャの中にも負のエネルギーがあるのだ
だからアリョーシャはリーザに惹かれるのか…

いよいよ父親殺しの長男ミーチャの公判

われわれはみなすべての人にたいして罪がある
俺はみんなの代わりに行くんだ
と流刑囚の覚悟とその中でも喜びを見出せる
そして神を愛している…
とずいぶん立派になったミーチャである

とする一方、次男のイワンがミーチャに脱走を進めている
ミーチャの弱い心はすでに脱走に傾いている(というか大好きなグルーシェニカと離れたくないから心は決まっている)
イワンはミーチャが父親を殺したと思っている…とミーチャは思っている
しかしアリョーシャはまったくそう思っていないのを聞いて、ミーチャは救いを見出す
一方アリョーシャはそんな兄ミーチャの想像以上の深い不幸な心を知り、心が激しく痛むのだ

ここでとうとうイワンが精神が崩壊する
真実に近いところを把握しているアリョーシャはイワンを全く責めないどころか、同情さえしているのだが、イワンには伝わらない
イワンはアリョーシャの勘繰りに対し(怯え…なんじゃないかなぁ)、絶交だと言い放つ
歪んだ心とある種二重人格の精神から徐々に自らを追い詰め気が病んでいくイワン
ミーチャの脱走も、複雑な罪滅ぼし的な感情が焚きつけた計画だ
そして父親殺しの真犯人を知ったイワンはとうとう気が狂ってしまう(理由を書くと完全ネタバレのため伏せるにする)
この真犯人を知る場面からイワンが気がおかしくなってしまう描写はなかなかのサスペンスである
追い詰められていく様子とイワンの心の乱れがじっとり広がってなかなか不気味に仕上がっている
昔の「ジキルとハイド」のようなモノクロサイレント映画を見ているようで、かなりの見せ場だ

さて、フョードルおとんの私生児スメルジャコフ
そう忘れてはならない!ある意味彼もカラマーゾフの兄弟なのだ
その役目を充分感じる存在感だ
彼のイワンに対する歪んだ好意とカラマーゾフ家に対する憎しみの複雑な感情
そしてスメルジャコフはイワンがプライドが高く、名誉もお金も女も大好きで、平和に満ち足りた生活をし、誰に頭を下げたくない…
誰よりも大旦那様(フョードルおとん)にそっくりだと言い放つ
スメルジャコフの本心がはっきり表れるのはここくらいだ
彼の心の奥底は我々の想像を越える暗闇と憎しみが広がっている
自身の不遇な出生や世間に対する激しい憎しみが見え隠れし、カラマーゾフの血の「暗」の部分をガッツリ持っている

そしていよいよミーチャに最後の審判が下される

うーん
下巻の後半残念ながら法廷での検事と弁護人の証言や尋問、弁論などのやり取りが多く、カラマーゾフの面々の登場がちと少ない
そこが物足りなかった
しかしながら相変わらず一人一人の個性あふれるキャラクター達の多様な人間性と、単純に善悪などで計り知れない人の心の微妙さを見事に描いている
個人的にドストの好きなところだ

そして残念ながら
未完…(それなりに完結してるようにも感じるが…)である
もっとも気になるのはアリョーシャ!
ところどころカラマーゾフの血を窺わせる描写があった
どうもこのままいくとアリョーシャはテロリストになる…⁉︎なーんて解説もあったりして私達を脅かす
だってみんなアリョーシャのことを大好きなんだもの(他のメンツが疲労感を覚えるほどアクが強かったので、アリョーシャに何度癒されたことか…)
でもアリョーシャ自身も、自分はカラマーゾフの血が流れている!と口にしているからなぁ…

他にも
アリョーシャとリーザとの行方は(うまくいななさそう)
イワンは回復するのか(しなさそう)
ミーチャは脱出できるのか(ちょっとどうでもいい ごめん)
あれほど描かれたコーリャ少年が引き続き出てこないはずもない…(出てくるだろうなぁ)

と妄想するしかないんだけど…
ちょっと悶々としてしまう

というわけでかなりの大作であるが、思ったよりも読みやすかった
ただ理解の足りない部分も多いので、いつか再読が必要であろう
そして、読み応えあり過ぎて最後には消化不良になった(汗)

数年前まさかドストエフスキーを読むことができるなんて思っていなかったのでそういう意味では満足度は高い
ドストエフスキー作品がなぜ素晴らしいのか、自分なりに少し理解できた気がする
(まだまだすこしだ…)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年2月25日
読了日 : 2021年2月25日
本棚登録日 : 2021年2月25日

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