人間の土地 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1955年4月12日発売)
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先日読んだ「夜間飛行」に感銘をうけたため、こちらも読むしかない!ということで…

まだインフラが整っていない時代、夜間の郵便飛行業が命がけだったころ、職業飛行家として生きた15年間の豊富な体験の思い出を8編にした「星の王子さま」のサン=テグジュペリのエッセイである
飛行家としての命がけの劇的な体験や、勇敢で誇り高い僚友たちのこと、そして自然とは、人間とは…
きわめて詩的で哲学観(感)満載の書である

通勤電車で読める本ではなかった…
ふ…深い!ある意味哲学書である
言葉を何度も噛みしめながら脳と心を働かせないとなかなか創造と理解が進まない
結局連続して2回読んでみた(まだ完全には理解できていないが…)

ちなみに「夜間飛行」もこちらも表紙の絵は宮崎駿氏である
宮崎氏は20歳の頃、サン=テグジュペリや同時代の飛行士達に憧れを持ち、60歳頃にしても、一番影響された…と言う
改めて「紅の豚」「風立ちぬ」を観てみたい
違った目線で何か気づくことが出てくる気がする

早速だが冒頭がいきなりこれだ↓
〜ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える
理由は、大地が人間に対抗するがためだ〜
タイトルとこの文章だけで、何分も思考をめぐらせてしまう…
サンテックスの頭の中はどうなっていたのだろうと毎度感心してしまう
何かに達観しているような仙人さを感じる

【彼らの功績と偉大さのわかる一部を3編に渡り紹介】

■メルモス編
サハラ砂漠を乗り越える橋をかけた実績のある僚友メルモス
今度は南米の空路調査
与えられた飛行機は上昇限度5200メートル
しかしアンデス山中の高峰は7000メートルに達する
砂漠を克服したら、山に挑むのだ
「ためしに」…である
そういう職業である
さらには空港に照明設備がない中、夜間着陸し、夜間航空を開発
そして次は海洋
このおかげで郵便物のスピードが飛躍的にアップ
〜このようにメルモスは、砂漠を、山岳を、夜間を、海洋を開発した
彼は一度ならず砂の中、山の中、夜の中、海の中に落ちこんだ しかも彼が帰ってくるのは、いつも決まってふたたび出発するがためだった〜

■ギヨメ編
冬のアンデス山脈横断の途中(そう先ほどの7000メートルの高峰の山岳地帯である)
7日間の行方不明
機体の下に潜り込んで、暴風と雪から身を守るため、郵便物で身を囲み48時間待ってみた
暴風がおさまり、彼は歩き出した
5日間
ピッケルもザイルも食糧ももたず…である
~ぼくは断言する、ぼくがしたことはどんな動物でもなしえなかったはずだ~
サンテックはこれをもっとも高貴なギヨメの言葉とし、この極限下で生還することについて、下記のように述べる
~自分に対する責任、郵便物に対する、待っている僚友たち、家族………
生きているあいだに新たに建設されつつあるものに対して責任があった
さらには彼の職務の範囲内で、彼は多少とも人類の運命に責任があった……中略……
人間であることは自分の僚友が勝ち得た勝利を誇りとすることだ
人間であるということは、自分の石をそこに据えながら、世界の建設に加担していると感じることだ~

■サンテックス編
砂漠の真ん中での不時着
~ぼくはすでにもう、この明らかな事実を知っていた、耐えがたいものなんか一つもありはしないと
死を前の煩悶は感じないらしい ただ忍びがたい何ものかがあるのだ~
水分がなくなった
布切で機翼を拭いた夜露と塗料と油の混ざった液体を飲む
拳銃があることを確認する(だが、「それがどうした」と思う)
この極限状態の中何時間も歩き続ける
疲労、妄想…とうとう幻覚が見え出す
ここでは19時間、人は水なしで生きられる(生きられない)
~助からぬものと信じていた 絶望のどん底に達したと信じていた
ところが、一度あきらめてしまうと、ぼくは平和を知った
危急存亡の時機に人は己の真の姿を見いだし、また自分自身の友になるものらしい
何ともしれないある本質的な欲求を満たしてくれるあの充実感には、何ものもまざりえまい
首まで砂に埋もれ、じわじわと、渇きに喉を締めつけられながら、あの星の外套の下で、あんなに心が暖かかった時のことをどうして忘れられよう…~

究極の精神と究極の魂の神々しさを感じる
(自分が苦しみと絶望の極限状態でこのように達観できるだろうか…)
そしてどんな場合でさえも、美しい詩となり表現される

他にも
砂漠についてや、あるおとぎ話のような家と娘たちの出会い、様々なモール人、モール人の奴隷解放…
他では聞いたことのない出会いや出来事が興味深い
サンテックスの筆にかかるとまるでSFのようだ

あらゆる場面にサンテックの哲学が散りばめられている
自然の脅威と美しさ
人間の本質、生物の誕生と死
宇宙
飛行機の光と影
職務
友情
そして情景描写の詩的な美しさを常に感じる

一読、二読ではもったいない
究極に精神に届く書である

(稚拙な言葉しか出ないのだが…本当にすごい人物である)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年7月11日
読了日 : 2021年7月11日
本棚登録日 : 2021年7月11日

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