遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫 イ 1-2)

  • 早川書房 (2001年9月15日発売)
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3


「日の名残り」がワタクシの中で大ヒットし、立て続けに「わたしを離さなないで」を読み、さあ次は「忘れられた巨人」と思っていたのだが…

どの作家さんもデビュー作を読むのは興味深い
荒削りながら、必ずパンチと個性が光る
(本に限らず音楽も然り)
そんな期待を込めてこちらのデビュー作を先に読んだのだが…


うわー
どうしよう…
まさかの…
苦手であった
読み終わるまでは…
そう読み終わるまでは…


構成はイシグロ氏らしく時間軸が交差しながら展開する

主人公悦子
父親の異なる2人の娘がいた
上の娘は日本人の父親
下の娘は英国人の父親
上の娘は引きこもり、そして自殺、下の娘は自由奔放に生き、葬式に来ない
充分複雑な家庭環境を思わせる
昔は違ったのだ
そう佐知子と知り合った頃…

悦子が長女を妊娠中の頃、佐知子に出会う
戦後のぐちゃぐちゃになった長崎であったが、これからの人生は幸せが約束されたかのような悦子
優秀な夫は昇格間近、義理父との関係も良好
お腹には初めての子が…

一方の佐知子は、シングルマザー(?)として一人娘万里子を育てている
浮気者で地に足のつかなようなアメリカ人に振り回されている
が佐知子は強気な姿勢でこの男を信じているフリをしている
もちろん娘の万里子にもトバッチリが押し寄せる
猫しか友達がおらず、子供らしさはなく、現実感のない空間の中に漂っているかのような万里子
そんな万里子に母親らしく接することができない佐知子

悦子と佐知子
二人の女性はまるで生きる世界が違うはずが、数十年経った「今」の悦子はまるで当時の佐知子のようにさえ感じる

不穏で謎めいた出来事がいくつかあり、妄想を掻き立てられる
しかし村上春樹のように、明確な着地点はなく、最後までグレーのモヤが延々と続く

万里子は誰の影に怯えていたのか
悦子は佐知子と友好関係に会った時、心からの友情があったのか?
今の自分と照らし合わせたせいじゃなく?
深く語られない自殺した長女
悦子にとってどんな娘だったのだろう…
長女が産まれてから、夫二郎と3人でどんな生活を営んでいたのだろうか…

そして、万里子
佐知子と万里子親子を長女を亡くした悦子が回想していくのだが…
悦子の心の喪失や深い悲しみ、長女に対する想いは直接的に語られない
そう、佐知子と万里子の回想を通しているのだね!
だから当時の万里子に対する想いと今の回想している万里子は違うはずだ
万里子を通して亡くした長女を想っている
だから佐知子と万里子に対して、悦子は驚くほどあたたかく優しいのだろう(と憶測する)

とにかく何が苦手って佐知子さんと万里子チャン
日本人の最初の夫二郎クン
この人たちの何というか剥き出しの感情(感情的な態度という意味ではなく)、暴力的な感情…
他の登場人物たちも概ね同様
あと日本語訳のせいなのか…?
日本の、日本人のフィルターを通った感じがするのです…
ワタクシに英語力があれば、もっと分析できるのだが(ないから無理)
何か日本の、日本人の湿度が入っちゃった感じがして苦手だ
「日の名残り」や「わたしを離さなないで」も不条理と不幸せと悲しみが常に漂っている内容なのだが、本書のようなストレートな行動や感情や湿度はなく、深い霧に漂うイメージだったのだが…
読んでいる最中は早く終わらせたくなってしまった

ただ、読了後の余韻は凄い
暫く引きずり妄想が止まらない
そして悦子の心を受け取ってしまったかのような錯覚に陥る
読み手の想像力を恐ろしいほど掻き立てます
これほど読んでいる時とその後のギャップみたいなものを感じたことはないかも
やっぱりイシグロカズオ凄いです!

さて「忘れられた巨人」は一体どんな作品なのか
楽しみである

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年5月27日
読了日 : 2022年5月27日
本棚登録日 : 2022年5月23日

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