わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫 イ 1-6)

  • 早川書房 (2008年8月25日発売)
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本棚登録 : 17074
感想 : 1808
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「日の名残り」がとても気に入ったため
こちらも読んでみることに

当時映画の予告編を見て、行こうか迷っていたため気になっていたのだ
だがこちらの映画化は2010年今から10年前!
それでも忘れられず印象に残っていたのである(この頃、イシグロカズオ氏を知らなかったため、本と映画は結びついておらず…)
それもあり、なんとなく内容は把握していたのだが…
自分の甘っちょろい想像以上の内容であった


現在から過去の出来事をゆっくりと紐解いて展開する
(遡ること10歳くらいから、現在30代の主人公へ…)
10代前半の彼らはヘールシャムの施設で保護官の元暮らしている
キラキラ眩しくうるさいほどの無邪気な子供時代
一見普通の子供達なのだが、少しずつ影と違和感が見え隠れし、次々の疑問が湧く
何故か堂々と聞くことができない暗黙のなにか…
何故、私達は絵や詩など展示館向けの作品を製作させられるのか?
外の世界と自分たちはなにが違うのか?
子供じみたいくつかの描写と対照的な謎めいたいくつかの暗い影(見事に引き込まれる)

彼らは成長し、施設を出て、保護官のいないコテージで共同生活を共にする
満ち潮のようにゆっくり迫る不穏な予感
だが少しずつしか明かされないため、主人公たちと同じように読み手側も同じ気持ちにさせられる
(この共感効果もなかなかである)
自分に似た「ポシブル」の存在って?
女性の主人公がアダルト雑誌ばかり見るのはなぜ?何を探しているのか?
真実が揺らめきとともにわかりかけてくる頃、目を背けた方が楽しく生きられる!
そんな確信があるからこそ、知りたいのに口にできないいくつかのことが徐々にわかってくるのだ
その瞬間にもっと強く逃げずに向かい合っていたら…
そんなことの繰り返しだ
なぜなら、心のどこかでこの先を感じていたから
それは提供者のことだけじゃなく、彼らの心もだ
このちょっとした繊細なズレや綻びが積もっていき、悲しみに移行してしまう
誰にもどうすることのできない悲しい残酷な運命を背負った彼ら
それを各々が徐々に知り、受け入れ始める
そう彼らはあらゆる出来事を受け入れるしかないのだ!彼らの方法で
裏切りに近い友情でさえ受け入れ、友情を育んでいく
激しく心が揺さぶられる内容でさえ、川のせせらぎのようだ
じわじわ締め付けられる悲しみで表現され、信じがたい酷いことさえ、いつも静かで美しい世界なのだ
覚悟をしていた悲しみがじわりと広がる
彼らと同じように受け入れたのだ…

イシグロ氏の本を読むといつもイギリスの田舎の湖畔の風景に自分が染められ、暑くも寒くもなく、かんかん照りでも雨でもなく、そよそよたまに風が吹く
悲しみ溢れる作品のはずなのだが、穏やかで落ち着く世界観がとても居心地が良い
読ませ方の構成や、読者の心を掴み続ける展開はさすがである
だが決して行き過ぎたテクニカルでイヤミな感じが全くなく上品なのだ
同じ内容の作品がイシグロ氏以外であったら、恐らく受け付けない内容だろうなぁ…
(失礼ながらもう少し陳腐な作品か、こてこてのテクニックとお涙頂戴系の苦手なタイプになりそうである)
しかし恐ろしいが、こんな時代がくるのかもしれない
そういった意味でも問題提起があり、考えさせられる内容であった




読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年6月30日
読了日 : 2020年6月30日
本棚登録日 : 2020年6月30日

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コメント 2件

トミーさんのコメント
2020/07/01

レビューを
ありがとうございます。この作品「カズオイシグロ」頓挫してますので
また挑戦したいです。「読みたくなりました」

ハイジさんのコメント
2020/07/01

トミーさん
コメントありがとうございます!
ぜひぜひ最後まで読んでくださいませ。
後半から展開にスピード感出ますので読み切れると思いますよ♪
レビュー楽しみにしていますね!

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