文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫 ダ 1-1)

  • 草思社 (2012年2月2日発売)
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感想 : 673
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あまりにも有名な本書
ようやく読むことができた
大昔に一度挫折したので身構えていたが、実に読みやすく拍子抜けであった

ヨーロッパ、アジア、アフリカ、南北アメリカ、オーストラリア…
それぞれの地で多様な社会が作り上げられた
なぜ人類社会は数千年にわたって異なった発展の道筋をたどったか
また世界の地域間の格差を生み出した正体は何か
というテーマなのだが、あまりに膨大な情報量と多岐にわたった内容のため、興味深かったものだけにフォーカスをあてることにする

わかりやすい例として、スペイン人とインカ帝国の激突がある

1532年スペインの征服者ピサロとインカ帝国アタワルパがペルーのカハマルカで出会った際、たった168人のスペイン軍が1人の犠牲者も出さずに何千人と言う敵を殺し自分たちの500倍もの数のインディを壊滅状態に追い込んでいる
スペイン軍が鉄製の剣や短剣などを持っており、ほとんど武装していなかったインディオたちをそれらの武器で惨殺できたからだ
騎馬隊を持っていたことがスペイン側を有利に
さらにはインカ帝国では天然痘の大流行にもよる
他にもスペイン人の集権的な政治機構や文字による情報の伝達が勝因
一方の情報不足で騙されたインカ帝国側
そう、「銃・病原菌・鉄」ヨーロッパ人が新世界を植民地化できた直接の要因がまさにこれ

このように人類史をたどりつつ、分子生物学や進化生物学、生物地理学、考古学、文化人類学などの研究成果をもとに解き明かす

ちょっとピンポイントだが個人的に興味深かったのが動物の家畜化だ
家畜化の候補となりうる大型草食動物は148種類にも関わらず、実際家畜化されたのはこのうちの14種類だけだ
どういった理由からか…
大型肉食獣は餌の問題から難しい
コアラのように餌が偏りすぎるのもダメ
また成長速度が15年もかかるようなゾウやゴリラも無理である
繁殖の問題としては、複雑な求愛行動をとるものも無理である
例えばチーターのように何頭かの雄が一頭の雌を何日間か追い回すような壮大で荒っぽい求愛行動により、ようやく排卵し発情する(女王様気質なのかしらん?)
これは檻や柵の中で繁殖させるのは無理だろう
そして気性の問題がある
気象が荒くては我々人間が殺されてしまう
そして意外にもアフリカに生息するシマウマがこれに該当する
シマウマは歳をとるにつれ、かなり気性が荒くなり危険になる(人間でもいますね)
さらにいったん人に噛み付いたら絶対に離さないというやっかいな習性があり、カウボーイでさえ、投げ縄で捕まえるのは不可能だという(ちょっと意外じゃないですか?)
他にもパニックを起こす神経質な動物も無理であるし、群れを作らず単独行動する動物も家畜化は難しい
こうしてふるいかけて残った…じゃなく選抜された家畜はたった14種類なのである
ここまでの道のりは考えただけで気が遠くなる

こんな感じのエピソードがぎっしり詰まった本書
だが、この上巻をまとめると
栽培できる植物や飼育できる家畜を手に入れることができたことが、ユーラシア大陸の帝国の出現だという
ちなみに植物栽培と家畜飼育の開始が征服戦争に直接貢献した最大の例は、ユーラシア大陸で飼い始められた馬(先程のスペインの征服でも重複する)
馬と同様に重要だったのは家畜から人間にうつった病原菌の果たした役割だ(役割とは皮肉なものだが)
天然痘、はしか、インフルエンザなど
これらの伝染病は動物に感染した病原菌の突然変異種だ
家畜を持った人々は最初の犠牲になったものの、やがて抵抗力を身に付ける
こうして免疫力を有した人々が、それらの病原菌に全くさらされなかった人々と接触した時、疫病が大流行し、多くの人が亡くなった
先住民を征服する上で決定的な役割を果たした

他にも食料生産も相当な影響を与えたことがわかった

当たり前に感じている現代の世界の力関係
よく考えたら一体いつからどのような経過を経て現代に至るのか
ひとつひとつ丁寧に分析されており、改めて納得することがたくさんある
でも…知れば知るほど理不尽で暴力的な世界にうんざりしてしまうのだが…

とにもかくにも下巻へ

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年8月13日
読了日 : 2022年8月13日
本棚登録日 : 2022年8月10日

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コメント 2件

地球っこさんのコメント
2022/08/15

ハイジさん、おはようございます♪

この本、いつかはいつかはと読みたいと思いながらも伸ばし伸ばしになってました。
なんだか難しそうで……

でもハイジさんのレビューって、私でも読めるかなと思ってしまうほど、いつも興味深くまとめておられるんですよね。今回もウズウズ♪

あと「サピエンス全史」と「ホモ・デウス」も読みたい。
「サピエンス全史」もハイジさんのレビューを読ませていただいてから、ずっと思ってるんですけどねf(^_^)

ハイジさんのコメント
2022/08/15

地球っこさん こんにちは!
コメントありがとうございます!

わかります
なんだか難しそうですよね…
でも本当に読みやすくてビックリされると思います
「サピエンス全史」も然り
昨今のお偉い皆さんはとてもご親切です(笑)

ただ、私の場合、あまり興味を持てない内容は時々寝落ちしてしまいました…^^;

私もホモデウスも読んでみたいです
読みたいものだらけで全く追いつけませんが…(涙)

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