およそ「自伝」と呼ばれるものにありがちな、
ある種の「虚飾」や「驕り」といった要素が一切感じられず、
ひたすら純粋に、淡々と振り返られた半生が、
まっすぐに心に響く。
NHKのドキュメント番組「地球ドラマチック」で、
驚異の記憶力をもつ「ブレインマン」として
紹介されていたのをたまたま観たときには、
単に「人間の脳のもつ限りない可能性」といった文脈しか
とらえられなかった。
著者は脳の障害のために、
「他人の身になって考える」ことができない。
社会生活においては致命的ともいえるこのハンディを、
著者が乗り越えることができているのは、
数字や言語に関する超人的な能力と同時に、
彼を受け入れてくれる家族や友人の存在があったから。
だからこそ、思春期までは家族との絆を感じることもなかった
著者が、家族からの愛を理解し、家族を大切に思うようになり、
パートナーとの間に「完璧な安らぎと絆」を感じたり、
さらには「レインマン」のモデルとなった男性との面会で、
「心がつながっていることを実感」する場面は心を打つ。
障害をもつ人の勇気と成長の物語であると同時に、
「多様性の受容」という、恐らくは日本人が最も苦手なことの一つに
有益な示唆を与えてくれるかもしれない一冊。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
思考力
- 感想投稿日 : 2015年6月21日
- 読了日 : 2008年1月16日
- 本棚登録日 : 2015年6月21日
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