物語フランス革命: バスチ-ユ陥落からナポレオン戴冠まで (中公新書 1963)

著者 :
  • 中央公論新社 (2008年9月25日発売)
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かねてよりフランス革命は、世界にもっとも大きな影響を与えた史実という認識を持っていた。それゆえに関心もあったが、通史的な本を読んでも、他の史実と似たような濃度で書かれてしまう。だから、いつかフランス革命のみに言及した本を読みたいと思っていた。

随分と時間がかかったが、その間フランス革命の本は常に渉猟していた。そして、ついに本書を手にした。タイトルに「物語」の冠がついている。加えて新書版なので、量的にも読みやすい。物語の仕立てで書かれているので、革命に関わった人々の息遣いや怒号やため息まで聞こえてくるようである。だから、本書はまず読んでいて楽しかった。楽しみながら、フランス革命という世界的かつ歴史的な出来事を学べたのは、本書と出会ったことによる僥倖と言うしかない。

フランス革命は一言で言えば、絶対王政という封建制度から共和制、つまり国民に主権を委譲する革命である。封建制度を倒した革命という意味では、日本ではよく明治維新と比較される。時期的にも明治維新から遡ること一世紀も経っていない頃の出来事なので、それも比較されやすい理由かもしれない。

しかし、革命の中身や革命がもたらした結果は随分と異なる。フランス革命は、まだヨーロッパ諸国が悉く絶対王政であった時代に、いち早く「国民主権」を取り戻す革命が勃興し、あまつさえその一方で今や「民主主義」の代表であるアメリカ合衆国の独立運動をも支援していたというのだから、民主意識にあふれた革命であった。一方で明治維新は、当時長らく日本を掌握していた武家から朝廷、すなわち日本の王家へ政権を返上する革命であり、日本が「国民主権」を取り戻すには、第二次世界大戦での敗戦を待たなければならない。そう考えると、軽々に明治維新とフランス革命を比較するのは、革命後の社会が乖離しすぎていて、とても比較できるものではないという気がしてくる。なぜなら、日本が「民主化」を達成できたのは、フランスの助けを得て独立を果たし、世界の「民主主義」の旗印を掲げたアメリカに戦争で敗れた結果だからである。

今や日本は民主主義国家を標榜しているけれども、著者があとがきで記している「日本も明治維新によって近代社会に移行し、戦後は「国民主権」の国に生まれ変わったはずであったが、政府や高級官僚諸君のやっていることを見ていると、今の日本で国民本位の政治が行なわれているとはとうてい思えない」という言葉に全面的に賛同せざるを得ない。さらには、諦めなのか、日本人的な長いものに巻かれる社会的特性なのか、国民本位の政治が長らく行われることなく、戦後のどさくさからくる一党独裁的な世の中が未だに当たり前に継続していることを思えば、今からでも日本版「フランス革命」を期待したくなる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史(世界史)
感想投稿日 : 2020年11月9日
読了日 : 2020年10月14日
本棚登録日 : 2020年10月4日

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