笑わない数学者 MATHEMATICAL GOODBYE (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1999年7月15日発売)
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数学的な言葉たちが、事件のキーワードとしても人生・人間関係のキーワードとしても光る、犀川&萌絵シリーズ第3作!

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天才数学者・天王寺翔蔵博士の住む三ツ星館。
そこで開かれるパーティーに参加することになった犀川助教授とお嬢様大学生・萌絵。

その席で天王寺博士は、館の庭にあるオリオン像を消してみせる。

そして、再び出現したオリオン像の下には、死体が転がっていた…

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前作にあたるシリーズ第2作「冷たい密室と博士たち」は、ゆったりした話運びで、衝撃的なエピソードも少なめのお話だったため、正直なところ、失速気味のようにもうつりました。

ところが、第3作「笑わない数学者」は、最初から最後までコンスタントに情報がもたらされたため、程よいスピード感がありました。
またそれらの情報が、さらに読み手の推理をかきたててくれ、とても面白かったです。
結局のところ、わたしが推理した内容はことごとく外れ(苦笑)、最後に「こ、これは当たってるだろう?!」と思った渾身の推理も、読み手に解釈を委ねられた形で物語は幕を閉じました。

「定義があれば、存在する」(460ページ)
「ねえ、どっちが中なの?」(中略)「君が決めるんだ」(479ページ)

こうした数学的なセリフが、事件のからくりやラストシーンと絶妙に呼応していて、非常に気持ちよく読みきれました。
最後に残った謎は、読み手の想像に任されたものの、それはけして後味の悪い任され方ではありませんでした。
「定義すれば、存在する」という物語全体を貫くキーワードが、物語だけでなく人生を別の角度から考えるためのキーワードにも見え、おもしろい言葉に出会えたなと思いました。


「これは最高に難問だ。
(解けたことにしようか…、とけなかったかことにしようか…)」(474ページ)

これだけ読むとなんてことはない文章かもしれませんが、この言葉が書かれているエピソードを読むと、犀川と萌絵の関係性をあらわす上で、この学問的な言葉がニクイ演出となっているのがわかります。
数学的な言葉たちが、事件にも読み手の人生にも、こんなにも効いてくるなんて…驚きを通りこして悔しくなってしまうくらい、おもしろい物語でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年4月8日
読了日 : 2021年4月8日
本棚登録日 : 2021年4月8日

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