現象に名前をつけるから、“有象”になり、意味を含むようになる。
でもそこに、名前をつけないままだったら…?
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西之園家の別荘のとなり(といっても5kmは離れている)にある橋爪家の別荘で、姉妹2人の死体が発見された。
しかも密室の中で…
一体なぜ?
密室のトリック、そしてその背後にあるものとは…?
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前作・前々作に引き続き、今回も登場人物一覧がなかったため、メモをとりながら読み進めました。
しかし読み切ったあとで、確かにこれは登場人物一覧は載せられない事件だな…と納得しました。
今回の物語は、笹木という40歳男性の主観で語られていく形式で、S&Mシリーズの中では珍しいタイプの物語です。
というかこの物語は、本編というよりは長編の番外編だなあと感じました。
なせ笹木の語りで物語が進んでいったのか、その理由も最後まで読めばわかります。
“ミスリード”される物語と聞いていたので、「騙されるものか!」と果敢に挑んだのですが、騙されまいとしたポイントがずれまくっていて、結局ミスリードの罠にかかってしまいました…不甲斐なし。
いやでも、違和感はちょこちょこあったんです…でもそういう理由だとは思わなくて…(言い訳)
密室トリックにはあまり興味がなかったので、ななめ読みでした。
ただ、なぜそんな密室が誕生してしまったのか、物語の中で推測され書かれているその理由を考えると、やるせないものがありました。
こうなのだろう、ああなのだろうと、見えないものを推測し、行動する。
それが成果を生むこともあれば、誤解を招くこともある…。
いや、そもそも、目の前の現象に名前をつけるのは人間だけで、だからこそ事件が“事件”として認識されてしまうのだなとおもいました。
元の姿なんて、どこにもないのです。
なぜなら“元”とされているものが、本当はどこにもないから。
人間がその状態を“元”の姿と名付けたにすぎないのです。
「今はもうない」のではなく、もともとこの事件は、その事件に関わった人々の思いも、実は“なかった”のかもしれないな…なんて、ちょっとキザに決めて終わりといたします。
「矛盾を含まないものは、無だけだ。」(486ページ)
- 感想投稿日 : 2021年6月17日
- 読了日 : 2021年6月16日
- 本棚登録日 : 2021年6月15日
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