人間のなかにある闇は、ちょっとしたきっかけでねじれながら顔を出す。
せつない恋愛小説「Separation」のあとに読むには、ハードすぎた短編集。
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書き下ろしを含む3本の短編が収録された1冊。
市川拓司さんと言えば、わたしの中ではせつない恋愛小説家の印象が強いです。
「世界中が雨だったら」という本は図書館で借りたのですが、帯が中に貼られておらず、なんの情報もないまま手に取りました。
タイトルを見て「この物語も恋愛小説なのかな?」と思って、気軽に読みはじめたのがまずかった…かもしれません。
いちばん話がまとまっていて、だからこそ背筋がゾクッとしてしまったのは、最初に収録されていた「琥珀の中に」でした。
こんな“愛し方”が、世の中にはあるのね…と思いましたが、その世界に足を踏み入れたらもう戻れないという恐怖にのまれそうでした。
表題作「世界中が雨だったら」。このタイトルの意味は作中に出てくるものの、どこかタイトルと内容がうまく噛み合っていないような気もして、腑に落ちないままお話が終わってしまいました。
「循環不安」は、ラストをどう解釈すればいいのか、一番わからなかったお話です。
だんだん夢のような部分も混ざってきて、タイトルの意味さえも、よくわかりませんでした。
せつない恋愛小説のときの市川さんの文章は、とても透明感があるのですが、今回のお話たちは透明度もグッと下がり、薄雲に始終覆われているような、ライトグレーの幕がかかっているような文章に見えました。
それは、文章が読みにくいということではなく、むしろ文章はとても読みやすく、サクサク進めました。
この本の前に、おなじく市川拓司さんの小説「Separation」という、せつない恋愛小説を読んでいたのもあったのかもしれませんが、おなじ著者のかなりギャップのある物語を受け取りきれなかったというのが、正直なところです。
市川拓司さんの恋愛小説だけでなく、他のお話も試してみたい方は、手にとってみてもよいかもしれません。
- 感想投稿日 : 2020年11月3日
- 読了日 : 2020年11月1日
- 本棚登録日 : 2020年11月1日
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