「トルコ料理店でのアルバイトを終えて家に戻ると、部屋の中が空っぽになっていた。もぬけの殻だった。」(3ページ)
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主人公の倫子は、バイトを終えて帰宅した。
ところがその部屋は、インド人の恋人の姿どころか、愛用品も貯金もなにもない空間へと変わっていた。
そんな部屋にただ1つ、置きざりにされていたのは、祖母の大切な“形見”だった。
倫子は祖母の形見を抱え、故郷へのバスに飛び乗った。
そのとき倫子の体にはすでに、“ある変化”が起きていた。
昔から倫子と母の関係は、うまくいっていなかった。
しかし財産すべてを持ち去られ、無一文になった倫子には故郷に戻り、料理を作って生きる道しかなかった。
母から借りた物件を改装し、「食堂かたつむり」をオープンさせるのだが…
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家に帰ったらなんにもなくなってた、なんて始まり方なものですから、「はっ!?なにがあった?!」と思ったときにはすでに遅し。
「食堂かたつむり」というこの小説に、がっちりと心をつかまれていました。
倫子の母という人も、なかなかの人生を歩んできた方でしたが、倫子も倫子で、さらにここからなかなかの人生を歩んでいきます。
幸せってなんなんだろう。
生きるってなんだろう。
食べるってなんだろう。
お互いを思いやるってなんなんだろう。
読みながら、そんな問いが、頭の中に響きました。
倫子と「食堂かたつむり」のお客さんとのやりとりや、倫子の母の気持ちのなかに、その「こたえ」はちゃんとあって、読み終わったときには、胸がじんわりしていました。
きっと倫子の作る料理も、お腹だけでなく胸もじんわりして、自分のすべてがぽかぽか暖かくなる料理です。
それは倫子が「食べること」「人が生きること」を、「本当に」知っているからです。
だから、倫子の料理は「暖かい」のです。
人は、木の実だけでは生きられない。
人は、身体だけ無事でも生きられない。
命は命をつないでいくし、心は心をつないでいく。
だから人は生きていけるのだなと、感じました。
- 感想投稿日 : 2020年6月12日
- 読了日 : 2020年6月11日
- 本棚登録日 : 2020年6月9日
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