慈しみの女神たち 上

  • 集英社 (2011年5月26日発売)
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本棚登録 : 178
感想 : 6
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数年前、朝日新聞の書評に誘われ、長編の森に迷い込んでしまった。

第2次大戦におけるスターリングラードの敗戦からベルリン陥落までを体験した若きナチス将校の物語、と言えば歴史物好きとしては食指が動く。東部戦線から敗走するドイツ軍と陥落直前のベルリンの混乱などを実在のナチスの著名人を散りばめて語る。しかし描かれる前線の凄惨さ、人間の倫理観と狂気の描写は単なる歴史文学には収まらない。銃や残虐行為の前にいとも簡単に消滅する人間の命。そしてそれに関与する人間たちの魂は確実に蝕まれて行く。人間はどこまで加害者になりうるのか、を問う哲学書でもある。若き魂の彷徨や禁じられた恋の行方等、多くのテーマを盛り込んだ構成の壮大さは、さながらマーラーの交響曲と言うべきか。次々と展開する舞台に圧倒的な描写力で引き込まれてしまう。

フランス最高の文学賞を獲得した話題作で欧米では評価が高いと言う。
難を言えば、長い。2段組みで上下2巻計1,000ページ。お時間とご興味があれば。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年9月23日
読了日 : 2021年9月23日
本棚登録日 : 2021年9月23日

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