新装版 人間の証明 (角川文庫)

  • KADOKAWA (2004年5月15日発売)
3.66
  • (138)
  • (177)
  • (273)
  • (26)
  • (8)
本棚登録 : 1421
感想 : 189
4

一人の黒人男性が刺されて死んだ。名前はジョニー・ヘイワード。彼が遺した「ストウハ」「キスミーへ行く」とは何を指しているのか。女性失踪事件と絡み合いながらストーリーは展開し、棟居刑事たちは容疑者を追い詰めていく。

母さん、僕のあの帽子、どうしたでせう(しょう)ね?

著者森村誠一氏が亡くなったと聞いて、この言葉とジョー山中氏の歌声と崖から飛んで行く麦わら帽子の映像が頭に浮かびました。
土曜の夜10時からやっていたテレビドラマは、当時子供だった私には難しかったものの、結末だけは覚えていました。

初版は昭和52年(1977年)。私が今回読んだこの版は平成16年(2004年)に発行された新装版で、巻末には初版あとがき、新装版あとがき、横溝正史氏による解説が書かれています。
黒人差別問題や、戦後の人々の問題、ドラッグ問題などを扱っていて、今と同じ感覚で語られているか、いないかも興味深いところ。男性たちの女性に対する思いがアグレッシブ過ぎるところには、時代を感じます。初版から46年。時代は昭和なのに江戸を舞台にした時代小説を読んでいるようなファンタージー感がしました。昭和って遠い昔の話になってしまったんだな、と、昭和生まれの私は少し寂しくもあります。

横溝正史氏があとがきに『鬼面人を脅かすような大トリックはない。しかし、海外の本格推理の達人たちが好んで用いる小さなトリックや小道具が、じつに巧妙なアクセサリのように随所に配置されていて、それが読書に巻をおく時間を吝しませるのである』と書いています。
大どんでん返しはありませんが、結末を知りながら読んでも面白く、登場人物の人間臭さと哀しさ、美しい昭和の情景描写、そして最大の小道具である西条八十の詩は、読んだ後も心に残ります。
ジョニー・ヘイワードとその父親の想いにも関らず、ジョニーがどうやって死んでしまったかを考えると、涙なくして詩を読は読めません。

また一人、素晴らしい作家がこの世を去りました。
心よりご冥福をお祈りいたします。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年7月27日
読了日 : 2023年7月27日
本棚登録日 : 2023年7月27日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする