伊賀の者どもは人ではない。
虎狼の族。ひとでなし。
今の今まで血を見る争いをしていたというのに突然肩を並べて笑いあう。
しかも、目の前で息子が殺されたというのに平然としているどころか
薄ら笑いまで浮かべるなんて...
"今日の味方も明日は敵"とはいえども
これにはかなり戸惑ってしまいます。胸が抉られるように苦しくなって
こんなところでは絶対に生きていきたくはないなとさえ思ってしまいます。
けれども少しずつ気持ちが落ち着いてくると、この伊賀忍びの精神は
(人間を含めての)動物本来の本能であるのかもしれない...
そんな思いがだんだんとしてきて、それは伊賀忍者だけに限ってではない
ことにも気づかされるのです。
生きるためのすべ...
ここに登場する人でいうならば
日置大善にしても左京亮にしても、自分のため国のためというなら寝返ってしまう。
よくよく考えれてみばそれもまた同じ。さほど変わりはないように思えます。
けれど、その"人間"という生き物を
"人"にしているのは"人"には"人を愛する"という感情があること。
妻を想い、子を想い、兄弟を想う。その感情ここそが
"人"を"人たるもの"にしているのだなぁということが、読んでいて
ひしひしと伝わってくるように感じました。
史実に基づく戦国の情け容赦のない醜い争いが描かれているなかにも
登場人物の一人一人(一部除外者がいるかも..?ですが)を通して
"人"には"人を愛する心"があるということを浮き彫りにして
感じさせてくれているように思うのは、著者和田竜さんの
筆致巧みな人間描写にあるでしょうか。素晴らしいです。
児玉清さんのあとがきもなんとも小気味よくて
最高の読後感が味わえました。
- 感想投稿日 : 2017年8月3日
- 読了日 : 2017年7月16日
- 本棚登録日 : 2017年7月24日
みんなの感想をみる