昭和の初期から戦争が本格化する時代にかけてが青春だったという一人の少女・布宮タキ。
タキは昭和5年、家族の口減らしのためわずか13歳で故郷山形の農村から上京し
女中として働くことになる。
元々好奇心旺盛で田舎を離れて上京する事に期待さえあったタキは、持ち前の
気転のきく賢さで女中としては重宝がられ、幾つか奉公先を変えながらも
長年に渡り女中として仕える生涯を送った。
やがて老境を迎えたタキは女中としての生涯のうち、決して忘れることのできない
ある一軒の家族に仕えていた時のことを大学ノートに書き記すことを始める――。
赤い瓦屋根のモダンな家。それは"小さいおうち"ではあったけれど、女中タキには
女中部屋が与えられ、玩具会社の役員の旦那様と時子奥様、恭一ぼっちゃんの
三人の家族に仕え、中でも時子には誠実に尽くすことを誇りにしていた.....。
晩年のタキが回想録を書き記している現在の暮らしと、女中として仕えていた
娘時代のタキの暮らしとが交互に描かれた戦時中の昭和から平成に至るまでの
時代の移り変わりは、決して平坦ではなかったはずなのだけれど、タキの過ごした
"小さいおうち"での暮らしには、優しく穏やかな愛おしさに包まれた温かなぬくもりが
感じられます。
赤い瓦屋根の"小さいおうち"での暮らしが生涯で一番忘れられない想い出であるタキ。
だけどその赤い瓦屋根の"小さいおうち"が生涯の心に残る想い出であった人は
実はもう一人ひっそりといたということが哀愁を漂わせる、しっとりと美しい物語です。
- 感想投稿日 : 2019年1月6日
- 読了日 : 2019年1月5日
- 本棚登録日 : 2019年1月6日
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