夏の灼熱にあぶりだされるかのように、心に焼きつけられた辛い記憶と向き合う季節がやって来る。
春に聞こえていた遠雷は、初夏、人々の心の中に宿り小さいながらも燻りはじめる。
シンの辛い記憶。ミムラの悲しみ。
イーオンは言う。
「悲しみを忘れるということは、愛さえも忘れてしまうということだ」
人々は悲しみを思いだし、愛を思いだし、生きはじめる。
というのは前半、ナナノ里での異変のはなし。
外からは楽土と呼ばれるこのナナノ里とフィランス教徒の思い描く楽園の違いを明確にするための巨大な伏線。
夏の物語はまさに青臭い青春に向かっていくシンの話。
セーランの名の意味も夏にかけているとはさすがです。
ですが今回の夏編、実はなかなか読み進められませんでした。
読めば読むほど虐待とかの描写が痛くて、心も痛くて。
ほんと、こんなに痛くて進まないとは思いませんでした。
いくらなんでもシンが痛々しくて。このまま救いなく終わったらどうしようかと思っていたのでした。
ですが最後はシンともど思わぬプレゼントをもらった気分になれました。
そして前向きに生きる目標を定めたシン。
レイシャとの出会いも音叉をならす話もきれいに積み重ねられてきた成長の布石でした。
家族と離れて暮らすことを選んでも男の子ですもの、己の見つけた道を進む姿は母も力強いと思ったことでしょう。
何より、帰れる家かあるから、自由にどこへでも行けるようになったのではないでしょうか。
人々の感情を敏感に味で感じることのできるシンなら、きっとイーオンなきあと立派な音導師となっていることでしょう。
そう、イーオンは長くない気がするんですよね。
イーオンがいなくなってもシンという希望が残った、みたいな終わり方をしそうで、今から覚悟を決めておかないと。
さて、レイシャはイチノ里へ。次第に俗っぽい世界に降りていってますから、イチノ里あたりでデサント、天路の国とがぶつかる日も近いのか。
デサントの大きな影の中に入ってきていますが、あと二冊で終わるのかしら。
それにしてもゲイルは音導師の資格をいつの間に得たのか……デサント人でも教父でも名を得て活動できるものなのですね。
さて、秋は12月刊とのこと。
一年のうちに三冊も読めるなんて!
次は血錆の味がする一人、トウロウが出てくるのではないかと予想。
一抹の寂しさを孕んだ風を感じながら厳しい冬に備え実りを収穫する秋の物語も楽しみです。
- 感想投稿日 : 2013年10月6日
- 読了日 : 2013年10月20日
- 本棚登録日 : 2013年10月6日
みんなの感想をみる