いわゆる「黒手塚」の問題作である『MW』は、ピカレスクものとしての完成度がとても高く、似たような作品に『バンパイヤ』などを思い浮かべますが、それら諸作と比べても、『MW』には特に抜きん出たものを感じます。
なかんずく素晴らしいのはメインとなるキャラクター像で、個人的には『MW』の結城美知夫ほど魅力的な「人でなし」はいないのではないかと思います。究極の自意識過剰者にして蠱惑的な魅力で性別や道理をリベラルに飛び越え跳梁していくその様は、19世紀末の退廃的シンボルとなったヘルマフロディトスのエロティシズムすら思わせるものがあります。彼に翻弄されながらもその魔性に懊悩を繰り返す神父の賀来にしても、それはしかり。とにかく、キャラクターひとりひとりがいい意味で記号化していて、スラスラと読めるわりに満足感が半端じゃないです。(他にも、結城に翻弄されるキャラクターとして最後まで登場する谷口澄子も、とにかく可哀想なんですが、好きなキャラクターの一人です。)
感想を訊かれても、それがパッと浮かばず、「でも凄かった」と言えてしまうのも、手塚作品の魅力だと思います。文庫本2巻でここまですごい作品を読めちゃうなんて、やっぱり、満足感もひとしおです。
「僕の命も長くは持たないだろう
僕が死んでしまえばもうこの地球なんざ用がないよ
「だから全人類に僕につきあって死んでもらうんだ
「悪徳と虚栄にみちた人類の歴史は 僕の手で永遠に閉じるのだ
アハハハハハハハ」
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2022年9月19日
- 読了日 : 2022年9月19日
- 本棚登録日 : 2022年9月19日
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