太陽の季節

著者 :
  • 幻冬舎 (2002年7月1日発売)
3.13
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本棚登録 : 98
感想 : 25
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第1回文學界新人賞受賞作にして、第34回芥川賞受賞作。

表題作の「太陽の季節」を含め、「処刑の部屋」、「完全な遊戯」、「乾いた花」とどれも退廃的な若者の姿が描かれている(「ファンキー・ジャンプ」は、内容がよく分からず途中で読み止めてしまったため不明)。

表題作「太陽の季節」は津川竜哉と英子のboy meets girlだが、英子を玩具同然に扱うその関係は所謂純愛では当然ない。
だが最後、竜哉の「スポーツマンとしての彼の妙な気取り」で死んでしまった英子に対して、「竜哉の一番好きだった、いくら叩いても壊れない玩具を永久に奪った」と感じる竜哉の心境には、英子への愛着が感じられる。もちろんそこには英子の人権を貴ぶ意識は微塵もないが、竜哉にとっては紛うことなく愛であったのではないだろうか。

「処刑の部屋」は、克己の良治に対する失望と期待が、不確定性(良治が闘わなかったのは、腑抜けからくるものなのか、竹島のピストルのせいなのかという不確定性)を交えて描かれている点が面白かった。その後に壮絶なリンチが始まるが、これ以降はグロテスクな描写に圧倒されてしまった(のであまりちゃんと読み込めてないかもしれない)。

「完全な遊戯」はとうとう殺したかと思わせる一作。
精神疾患を抱えた女を犯し、女郎屋へ売り飛ばそうとした挙句に崖から落とすストーリーには共感も同情も全くできない。だが、「完全な遊戯」という題名にもあるように、これが男たちの間で100%遊戯であるという冷めた認識で統一されている。この点において、軽はずみで猟奇的な殺人が横行している現代で一読の価値があるように思える。

「乾いた花」は個人的には一番好きな作品だった。
村木は出所後の何も変わらぬ娑婆の生活に退屈を覚え、冴子は何不自由のない生活に退屈を覚えていて、その退屈を通じて二人はつながっていく。人には「何者かになりたい」という思いや「自分が世界をかき混ぜていく」という思いがあるものだが、彼らはその思いが大きすぎて飼い慣らせないのではないだろうか。晴らせぬ思いを抱えたまま生き生きと生きられずに腐りそうになるのを、大きな賭けで何とか防腐する。私にはその生き方がどこか愛おしく感じられた。
冴子の言う「人間て、なんでもっとまともな方法で、本当に生きられないんだろ」が正しく彼らの渇きなのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 純文学
感想投稿日 : 2022年7月3日
読了日 : -
本棚登録日 : 2022年6月15日

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