氷菓 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2001年10月28日発売)
3.56
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感想 : 2226

古典とは、ただ単に過去に存在していただけのものではなくて、今現在に影響を与えて、今に繋がっているもの。
古典部シリーズとは、高校生活でこんなことがありましたと羅列するだけの作品ではなくて、他者の物語を垣間見たり、自分と向き合ったり、いろいろな経験をしてそれぞれが成長していく。奉太郎やえるたちの未来の自分を形作る、未来の古典となる今を描いている作品だと思います。
それは本を読む体験と似ていて、読者にとっても同じことが言えるのではないでしょうか。


この作品の登場人物の設定やエピソードはタロットのアルカナが参考になっているみたいです。

折木奉太郎
  力(8) 女性にコントロールされるライオン
  ○正位置 絆、意志 ●逆位置 無気力
千反田える
  愚者(0) 旅人(目的を持つ、もしくは無計画)と一匹の犬
  ○正位置 自由、純粋、天才 ●逆位置 わがまま、無計画
奉太郎とえるは二人一組として愚者と力のアルカナが割り当てられているようで、状況によっては奉太郎が愚者で、えるが力のアルカナとして描かれていると思います。
愚者の「THE FOOL」と力の「THE STRENGTH」=「LION」の2つのアルカナに共通するアルファベットを取り出すと、「EHLOT」の5つになります。その中から「OH」と「TE」の4つが「折木奉太郎」と「千反田える」のイニシャルに使われて、「L」は、発音が「える」、形が「折木」の名前の元になったと思います。
チタンダの読みだと普通ならイニシャルは「C」ですが、「T」なのはTITANから名前が考えられたのではないでしょうか。豪農の千反田家というのは、巨神タイタンのクロノスからイメージされたのではないかなと思います。
愚者と力のどちらのアルカナも、人と動物、二つの存在が一組になって描かれています。奉太郎とえるの二人が出会って氷菓の物語は始まりました。広い世界を二人一緒に旅をしていろんな経験をして、神山を出ることになっても神山に戻ることになっても二人はずっと一緒なんだろうな、とアルカナを基に二人のこれからを想像しています。

奉太郎の灰色の世界は、天気で例えると曇り空の世界です。その曇り空の世界にえるという太陽が現れて光で照らして、灰色の世界に様々な色が加わっていきます。
アニメ氷菓では、えるの存在を太陽で比喩をした表現が多かったと思います。前期のOPなど。
第18話でえるがフンコロガシの絵本を選んだのは、フンコロガシ(スカラベ)が転がす糞を古代エジプトでは太陽に見立てていたことを参考にした表現だと思います。
灰色の世界とそれを照らす太陽。奉太郎とえるは二人一組で描かれていて、時には二人を象徴するものが入れ替わるとすると、灰色の世界と太陽も入れ替わるのではと考えました。
水と土しかなく、人も老いていく小さな神山市、自分と自分の街とその未来。えるにはそれが灰色の世界として映っているのでしょう。けれど、二人が一緒なら、えるの灰色の世界を奉太郎が太陽となって照らして、今迄見えなかった新しい色に気付くことが出来る。遠まわりする雛のラストシーンはそんな予感を感じさせるものでした。

福部里志
  魔術師(1) 派手な衣装を着た手品師
  ○正位置 創造、活力 ●逆位置 消極的、力不足
手品では表面的に起こっている事象と裏側で起こっている事象は違います。里志の表向きの態度と奉太郎や摩耶花に抱いている思いが一致しないこともあります。

伊原摩耶花
  正義(11) 正義を象徴する女神
  ○正位置 公正、両立 ●逆位置 片思い、多忙
折木供恵
  女教皇(2) 知識を授けようとする修道女(少女)
  ○正位置位置 知性、直感 ●逆位置 わがまま
遠垣内将司
  吊るされた男(12) 通過儀礼の儀式を行う男
  ○正位置 奉仕(壁新聞部の手伝い) ●逆位置 欲望に負ける
関谷純 小木正清(死亡したり転校したりした人物のアルカナは新しい登場人物のために使われるみたいです。)
  塔(16) 小さな塔(プロパガンダの媒体)
  ○正位置 悲劇 ●逆位置 アクシデント
糸魚川養子
  隠者(9) 後輩を導く老人
  ○正位置 真実へ導く ●逆位置 真実へ導かない

善名梨絵・善名嘉代
  月(18) 月と一対の犬と2棟の建物と水の中の甲殻類
  ○正位置 不安定、見えないもの ●逆位置 好転
入須冬実
  女帝(3) 玉座に腰掛ける女帝(母親像)
  ○正位置 才能、魅力、実利 ●逆位置 他人を使う
本郷
  星(17) 大きな星と周りを囲む7つの小さな星と二つの壺から液体を注ぐ女性(仲介者としての能力を持っている)
  ○正位置 ひらめき、成功 ●逆位置 悲観的
江波倉子
  節制(14) 杯から杯へ水を移し替える大天使ミカエル(仲介者)
  (古典部と探偵役との)仲介
中城順哉
  教皇(5) 自らが法である教皇(書物の確認がいらない)
  ○正位置 優しさ ●逆位置 ひとりよがり(脚本無視)
羽場智博
  皇帝(4) 玉座に腰掛ける皇帝(先導する指導者)
  ○正位置 行動力 ●逆位置 独断
沢木口美崎
  戦車(7) 戦車(地上を走るための乗り物ではない)に乗った若き王
  ○正位置 突進 ●逆位置 暴走

十文字かほ
  運命の輪(10) スフィンクスが操る輪の周りを4人の天使(天使は「世界」に向けて勉強中)が囲んでいる
  ○正位置 変化 ●逆位置 別れ、すれ違い、アクシデント
陸山宗芳
  世界(21) 中央に描かれた人(男性もしくは女性もしくは両性具有もしくは神人合一)とその周りを取り囲む天使・鷲・牛・ライオン
  ○正位置 完璧 ●逆位置 調和の崩壊
田名辺治朗
  審判(20) 空中に現れた天使と地上にいる老人・女性・棺からよみがえった人物
  ○正位置 復活 ●逆位置 執着
あんじょうはるな
  死神(13) 死神(性別不明つまり両性具有的であり「世界」の完璧なる存在に近いもの)
  ○正位置 終わり ●逆位置 再スタート
河内亜也子
  太陽(19) よく似ている二人の子供が太陽に仲介されて接触している
  対立する二人の接触、変革への第一歩
湯浅尚子
  恋人(6) 男性とその両側に立つ二人の女性と頭上に天使らしきもの
  ○正位置 調和 ●逆位置 不調和
谷惟之
  悪魔(15) 悪魔と拘束された男女
  執着

「遠まわりする雛」まで

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年4月27日
読了日 : 2017年4月27日
本棚登録日 : 2017年4月27日

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