嫉妬の世界史 (新潮新書 91)

著者 :
  • 新潮社 (2004年11月17日発売)
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「嫉妬」という言葉を聞いて良い感情だと感じる方は少ないだろう。だが時に自身を奮い立たせる原動力になったり、その気持ちを抱いた後に来る自身に対する嫌悪感から、より精神を高度に成長させる糧にもなったりする。斯く言う私もビジネスの世界では同僚や後輩の昇進に内心平然ならぬ感情を抱いたり、学生時代には好意を寄せる女性が他の男と話をしているのを見ては、自分は大して好きじゃないという想いとは逆の態度をとりながら自分の精神を無理やり平静に保とうとした事を思い出す。これは絵に描いたような嫉妬である。
本書は歴史上の人物にも見られた嫉妬と、それを要因に発生した政変や粛清などを取り上げている。
それは古代ローマ時代から現代に至るまで、誰もがよく知っている人物にまつわる話が中心となっている為、非常にわかりやすく頭に入ってくる。
そして嫉妬の恐ろしさが世界史・日本史を大きく変えてきた事実にも驚愕してしまう。
兄弟間、夫婦間、親子、上司部下の関係などいずれのパターンでも人が常に自分と他を比べる性質である以上、何処にでも嫉妬は発生する。そして時代背景が戦時のような混乱した状況にあれば、嫉妬の相手方を容易に死に追いやることも珍しく無い。そのやり方も恨みの大きさや見せしめの効果を狙ったケースなどでは見るも無惨な形で執行される。嫉妬とはその様な恐怖につながる危険な感情だし、現代でもニュースにされる様な男女間の嫉妬の行く末などにも通ずる。
嫉妬が生み出すもの、自身の身を追い落とす存在になる様なケースでは相手への恐怖心、自身にできない事をやってのけてしまう事から来る畏怖の念、蹴落としてでも競争に勝ちたいという執念など、かなりの爆発力を秘めている。それほどまでに人を突き動かす原動力になるが、その一方で、そうした嫉妬を受けないタイプや、嫉妬の感情に縛られない人物もいる。本書はそうした人材も取り上げることで嫉妬の感情の抑制に繋がる方法も示唆しているようだ。
とは言え本書を読んで感じるのは、目立てば当然に周りからの嫉妬にさらされるし、そうならない様に身を潜めれば大業を成し遂げるのは難しいし、究極的にはそれを抱えながら上手く生き延びるしか方法は無いというこではないだろうか。
本書後半で取り上げる「天才」石原莞爾と「秀才」東條英機の辺りは非常に面白く、現代社会で自分の周囲を見渡せば、その様な嫉妬に渦巻く争いの一つや二つが容易に出てくる。
本書を読みこうした知識を持っておくだけでも、また一つ自分の精神を周囲にはコントロールされにくい強固なものにできるのではないだろうか。会社組織なら優秀な部下がいてこそ、チームの勝利と自身の評価に結びつくのであって、部下への嫉妬などは持たない事である。万が一上司部下の関係がひっくり返るなら、自身の努力が周りに対して及ばなかっただけである、と素直に受け入れるだけである。が、自分がそこまで立派な人間になる日は遠そうだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年9月9日
読了日 : 2023年9月9日
本棚登録日 : 2023年5月20日

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