ジェノサイド国家中国の真実 (文春新書 1333)

  • 文藝春秋 (2021年10月20日発売)
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中国への遠慮なのか、過去の自国の過ちからなのか、あまり日本のニュースでは取り上げられない中国による周辺民族弾圧を伝える内容である。ネット動画や信頼性の解らないようなニュースサイトから流れてくる程度の情報では、特に新疆ウイグル自治区に対する弾圧が世界中から避難を浴びていると言うのはよく知られている。記憶に新しいところでは、平和の祭典オリンピック前後では民族弾圧に対する世界各国からの避難が、開会式参加辞退などに繋がるため国内ニュースでも取り上げられていた。
中国の周辺民族問題としては、1944年にイリ、タルバガタイ、アルタイていう北部新疆の三地区で独立運動(三区革命)で、ウイグル人、カザフ人、モンゴル人が独立運動を起こしている。1949年に東トルキスタン共和国として一旦は建国されたものの、地理的にソ連・中国の二大国に挟まれその思惑に翻弄される。現在の形はソ連(スターリン)に見放されて、中国編入された新疆ウイグル自治区となっているが、東トルキスタン人は自分たちの国を取り戻そうとしてる。それに対して中国は漢民族への服従や漢民族以外の人権侵害的な行為を継続している。
具体的には、よく知られているのは、中国が設置している収容所への強制収監である。そこではイスラムの名前を子供につけるのも禁止であるが、漢字名を名乗らなければならない。またチベット語やウイグル文字などの使用も禁止し、自分たちの言葉を喋る事が許されない。優秀な学生は海外留学など努力に応じて教育を受ける機会はあるものの、中国の政治や体制に少しでも批判的な発言、立場を取れば、あっという間に政治犯扱いされて勾留されてしまう。そうなるとその後の出入国もままならなくなる。要するに黙っておけよ、といったところなのだろう。中国はこうした漢民族ではない人々を減点方式で管理しており、パスポート作るとマイナス10点といった「目立つ」要素は全て減点されてデータ化されている。中国は何かにつけて、この人民を点数化する事、監視による完全な追跡を行う事が得意であるから、大きな驚きは感じないが、非常に息苦しい社会の中でも更に息苦しさを強要している。当然移動の制限 も厳しく(監禁してるくらいだから)、車はGPSをつけないとガソリンを入れることもできず、宿泊するにも、その事実を報告する必要があるため、小さいホテルなどは宿泊拒否する様な状況だそうだ。チベットやモンゴル人は当局通報義務があり、大手ホテルでないと対応が難しいようである。驚いたことに病院を自由に使えないため、たらい回しにされた挙句に死亡してしまうなど、生死も中国に握られているようだ。これらは見た目だけでなく、名前などからも判断される様なので、迂闊にそれっぽい名前をつけてしまうと、中国では生活に支障をきたしてしまう。
こうした事は長い人類史の中では繰り返されてきた事ではあるが、21世紀になっても「民族浄化」を進めているのは驚きだ。歴史を消し去ったり、無かったことにする歴史修正主義も徹底しており、正に地球上から消し去る事を目的に進められている。過去を消し、未来に向かっては女性に対する強制的な避妊措置などは、国連が定義するジェノサイドの要件そのものだ。
確かにナチスドイツやかつて侵略を行った日本でもそうした行為は行われてきたが、それら過ちを繰り返さぬ様に国連があるのでは無かっただろうか。過去を反省し繰り返さぬ様に各国が連携して防ぐ、これができないなら確かに国連の存在意義は影を潜める。そう考えると、中国の経済に依存し、同国をここまで発言力の強い国にしてきたのは世界各国であるから、ある意味自業自得だ。
だがもし今新疆ウイグル自治区で起こっているこれらが真実なのであれば、やはり世界は結束してアクションを起こすべきだ。人は誰しも安全に平和に暮らす権利を持っている。見過ごしてはいけない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年7月2日
読了日 : 2023年7月2日
本棚登録日 : 2023年6月24日

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