ヒバクシャの心の傷を追って

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 19
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000019415

作品紹介・あらすじ

「被爆者の心の傷」はきわめて重篤な、特殊なPTSDであり、それはいま生存している被爆者すべてがもっている-被爆後六一年経ったいまでもなお、その傷は癒えない。それはなぜなのだろうか。著者だからこそ聞くことのできた体験談、発表を許された貴重な証言を紹介しながら精神科医の冷徹な目をもって分析し、「被爆による心の傷」とは何なのかを客観的に示す。長年、多くの被爆者と、医者と患者として以上に付き合ってきた著者だからこそ実現できた貴重な一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 長崎広島の原爆被爆者には「語り部」となり体験を語る人々がいる一方、なぜ多くの人々は多くを語らないのだろうかと不思議に思ったことがある。この本を読んでその理由がわかった気がする。著者は被爆者の抱える心の傷(PTSD)を治療した臨床経験をこの本にまとめた。被爆者をPTSDを抱えた人々という視点から見ることで、原爆投下の真の残酷さをあぶり出している。

    広島や長崎の街並みは今となっては他の都市と変わらないし、人々は普通に生活し、次世代も育ち、自然も回復したている。しかし、人々が心に負った傷がなくなったわけではない。それはPTSDとして広島・長崎の原爆投下を体験した人々の心に今も深く刻まれている。「広島には草の一本も生えることはないだろう」と言われた街がここまで復興したのだから、表面上はそれでよいのかもしれない。しかし、被爆を体験した人々、二時被爆をした人々の心の傷は決して表面に見えるものではない。本人たちでさえ見ないように感じないようにと生きてきて、老齢に差し掛かって初めてその傷に向かい合うこともある。

    被爆者の体験は、放射能被爆という特殊性を持つからこそ、未来、そして生への恐怖として個人の人生で何度も何度も立ち現れる(様々な病気や遺伝的欠陥のとの因果関係があるから)。PSTDの特徴として、過去の体験は決して過去にとどまるのではなく、日々の生活のなかで突然に生々しい感触として蘇ることもある(フラッシュバック)。また、子供が生まれることは障害や病気を連想させ、家族や親類の病気や死は自分の生への恐怖を呼び覚ます。それは決して終わることがない永遠の苦しみでもある。

    原爆については、被爆者である語り部が語ること、写真や記録に残されたことが全てではない。むしろ、本当の恐怖は、語られない中に存在している。
    語り部として公衆の前で体験を語ることができても、自分の子供と自らの体験や感情を話し合うことができない人も多いという。また、第一次被爆を体験していないからという理由で自らを被爆者として認識していない、または被爆手帳を申請しなかった人も多い。しかし、だからと言って彼らが心の傷を追っていないというわけではない。
    本書では被爆体験を持った人々の子供たちに関しても記述があり、その点も大変ユニークである。

  • 被爆者の心の傷をここまで書いた本には出会わない。著者の筆致によるものもあるが、読んでいて辛くなる。原爆被害のPTSDは史上最悪の外傷記憶のPTSDである。しかもフラッシュバックを起こすきっかけがずっと続いているという最悪のものである、と繰り返し述べている。(P169)

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著者プロフィール

'1937年群馬県に生まれる。「心の病」治療の権威として、また地域・家族ぐるみの精神衛生活動の先駆者として知られる精神科医である。その活動で出会った人々を描いた本書は、「自分の人生の前半そのもの」と自ら言う。人生の後半は東京のど真ん中の病院で都会人の心の守り人となり、現在も臨床医として第一線にいる。私たちを取り巻く今の時代、この”治す職人”の慈愛に満ちた目と指針はますます貴重になった。

「2007年 『こころの医者のフィールド・ノート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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