物語とふしぎ―子どもが本に出会うとき

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000022934

感想・レビュー・書評

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  • p18:ファンタジーをつくりあげるためには、内界の現実の探索が必要で、このことを知らずに、自分の考えや単なる空想によって話をつくりあげると、それはいかに大きく長いものでも「つくり話」(SF)になってしまう。
    p19:ファンタジーの先駆的作品で、その題名に「ふしぎ」という表現がある「ふしぎの国のアリス』を書いたドジソン(ルイス・キャロル)は、数学者である。『アリス』を読んで、こんな面白い物語を書く作者の次の作品をぜひ読みたい、とヴィクトリア女王が言ったのを知り、ドジソンは数学の『行列式』の書物を書いて送り、女王を驚かせたと言う。『行列式』も『アリス』も、彼にとっては同等のエネルギーを費やす仕事だった、と言うこともできる。
    p19:自分が意志したわけでもない、願ったわけでもない。ともかく気がつくとこの世に存在していた。おまけに、名前、性、国籍、貧富の程度、その他、人生において重要と思われることの大半は、すでに勝手に決められている。こんな馬鹿なことはないと憤慨してみても、まったく仕方がない。その「私」を受けいれ、「私」としての生涯を生き抜くことに全力をつくさねばならない。
    p123:大江健三郎は「『家族のきずな』の両義性」という講演で、次のように語っている。自分たちも家庭をつくるとなると、子供たちを育てていく役割と、それを弾圧する役割というものをどうも持つのらしい。それから子供たちは父親に、あるいは母親に深い影響を受けると同時に、それに反逆しなければ成長していけない側面も持っている、そういう両義性があって、それは必ずしもすべて否定されるべきではない。
    p127:ゲド戦記の「帰還」 ル・グウィン
    このような結婚こそが、現在の状況にふさわしいのではなかろうか。魔法の力とは、人間が思いのままに他を「支配する」能力ではなかろうか。人間は、特に男たちは、何でもかんでも支配できると思いすぎた。彼の命令にすべてが従うことによって、うまくいくと信じていた。女性は、男性に従うという形で、魔力はないとしても魅力によって男を捉え、受動的に支配する方法を磨いてきた。子どもは、自分の「輝かしい可能性」によって親を支配しようとした。もう、そのような時代は終りつつある。他を支配することによって幸福を獲得することなどはできない。魔力も魅力もないカップルが、傷つき癒され難い子どもをもつ、という閉塞された状況のなかに家族はいる。
    p234:隠れキリシタンの文書を読んでいて面白いことに気づいた。ラテン語では魂のことを「アニマ」と言う。それを日本のキリシタンは聞きまちがって「在り間」と書いた。「存在するものの間」、それが魂なのだ。魂は、ものが普通に存在するような意味では存在していない。しかし、それは「在り間」に存在する。今日と明日との間、心と体の間。

  • 小学生の国語の教材としてこの「物語とふしき」の一部分が使われていて、とても興味を持ちました。

    あまり多くは読んでいませんが、絵本や児童文学は大好きです。
    「自分の心の中にある物語」と今読んでいる物語とを重ね合わせることがどれほど豊かなことか、改めて気づかされました。

    読む人によっては育児書にもなり、悩んだり立ち止まったりしている人にとってはそっと背中を押してくれたり、そばに寄り添ってくれたり、そんな文章だと思います。

  • ファンタジーの必要を理屈で説明するってバカなことしなきゃいけないってそりゃ自殺者三万いくよ(~_~;)

  • 混迷した時代を生き抜くための知恵は案外このようなところから学ぶことが多いのかも知れない。

  • 児童文学を紹介しながら、人生における”ふしぎ”について説いています。”ふしぎ”など必要のない世界と”ふしぎ”を感じられる世界、どちらの世界を信じたいでしょうか?読んでみたい児童文学も出てきました。

  • 子どもが読書体験を通して感じる「ふしぎ」を論じつつ、
    児童文学を紹介してしまおうという試み。
    さすが心理学の大家だけあって、論じる角度がすべて興味深い。
    ネタばれはせず、でもすごく面白いということだけ伝わってくる
    紹介の仕方なので、すべての本が読みたくなる。
    なんて上手な薦め方だろう、と感嘆の極みです。

    河合さんの本を読むと、子どもを子どもらしく生かしてあげたいと
    強く思います。そして自分が子どもだった時代を思い出します。

    「自然」「人物」「町・村」「時」とそれぞれふしぎの種類が分かれていて、
    私は中でも「時」のふしぎにグッときたかな。
    子どもの時も今も、このふしぎについて考えてつづけている気がします。


    ●最後に個人的メモ。読みたい児童文学。
    「ツバメ号とアマゾン号」 アーサー・ランサム
    「ミセス・タッカーと小人ニムビン」 パトリシア・ライトソン
    「クローディアの秘密」 E.L.カニグズバーグ
    「宝島」 R.L.スティーブンスン
    「やかまし村の子どもたち」 アストリッド・リンドグレーン
    「グリーン・ノウの子どもたち」 ルーシー・ボストン
    「妖精ディックのたたかい」 K.M.ブリッグズ

  • 新聞で入試の問題文として紹介されていたのを読んで、衝動買い。<br>
    「自分なりの説明」「納得」「物語」「自然科学」「ふしぎ」「神話」<br>
    ここら辺のキーワードだけで、十分だ。<hr>

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