子どもたちが危ない: 彫刻家の教育論 (岩波ブックレット NO. 41)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (63ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000049818

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  • ◆芸術は人生の必要無駄である◆
    彫刻家“佐藤忠良”は知らなくても、絵本『おおきなかぶ』の挿絵を描いた人だと言われればわかる人も多いでしょう。
    東京造形大学で多数の後進の教育に携わってきた著者ですが、子どもたちのための美術の教科書づくりにも長く熱心に取り組んできました。子どもたちの未来を危惧する気持ちが素直に伝わってきて、こんなふうに自分たちのことを考えてくれた大人がいたのだと知るためにも、ぜひ読んでもらいたいと願います。いい本です。

  • (1999.05.03読了)(1985.03.02購入)
    彫刻家の教育論

  • 平易な文章で読みやすく、
    かつ筆者の教育への、こどもへの熱量が伝染してくる。
    同時に自分自身の書の取り組み方への叱責を頂戴したような。

    ●以下引用

    つくりながら、自分がなにを言いたいのかがわかってくる。言いたいことの出来上がりの形があまり明確にわかってしまったら、もうつくらなくなる

    日本では知識が、それを身につけることによって人間性を豊かにし、人格を高めるものとしてあるよりは、それによって、個人が栄達をはかる道具としての意味あいのほうがはるかに大きい。

    西欧にある宗教による支えのような、逆境にあっても人間性を失うまいとする哲学性のようなものが希薄

    自分の職業を生かして働いている人は、腰もすわってくるし、ふとってくる。生きがいを感じてやれるのです。

    社会的に高い地位にあるわけでもなく、特別に高い教育を受けた知識人というのでもない、ただふつうの人のなかに息づいている素朴で温かい人間性みたいなもの

    ほんとうを言えば、その役者が涙なんか流さずに舞台に立っているだけで、観客がゾォーッとするような演技の方が、すばらしいと思うのですね。ドタバタやるほうがやさしいんじゃないですか。

    彫刻は一センチだって動くことはないんですから。動かないで、二時間の映画、300ページの文学、一時間の音楽に匹敵するものを、ひとつの像に語らせようとするなら、下手に動かない方がいいのです。なるべく抑制して、瞬発力をうんと内にこめて、過去と現在と未来を表現する。

    表現を美しく、強くしたいと思ったら、単純化が大切で、作品にあまりおしゃべりをさせないほうがいいようです

    いつでも下向きの矢印と同時に、上向きの矢印が必要

    日本人が貧乏であった時代は、自分の足で歩いて、自分の手のひらでさわっていなければ、生活できなかった。極端に言えば、スイッチやボタンでせいかつできます。触角感がにぶってしまう

    それだけ自然との対応の仕方が下手になり、からだをとおして経験することがなくなりつつある

    絵を描くというのは、具象の場合、対象を自分の眼でしっかりとさわって描く、つまり、触角を視覚に換算しながら平面の上に描いていくということで、たいげんな堪え性がいる

    わたしはほんものというのは、作品を見た人の心に、人間としての感動や感慨をもたらすもの、それがほんものだと思います、そうしたものがあったとき、はじめて作品が格調とか品格に結びつく

    路肩の石ころを見ながら、そのそばを何万回通っても、ああ石ころだなと思っている人と、一回通っただけなのに、石ころに自分を投影できる眼と心の訓練の違いを、わたしはいいたい。

    一日も休まないくらいの気持ちでやらないとだめだよ

    作品をつくるというのは、今の大学制度の中では、それだけの時間と努力が必要

    手伝ってもらってもうけたと思った瞬間、もう負けがはじまっている

    向かい風が弱いとか、石ころが途中にあって躓いたとかは理由になりません

    才能というものはよくわかりませんが、文化的環境とか、哲学的思想的勉強とかが、ビタミンになって、それらと、こつこつ努力することが結びついて才能をひきだす、ということになるのでないか

    決められた時間のなかで、規格のものをつくるので、こなし屋になる。こなし屋になって、その要領だけを身に受けて行く、感動を矮小化する

    図工科の目的が、人間をつくる。感ずる心を開き、情緒や意志を育てて行く、ためにある

    教科書には教科書のつくり手の意図がはっきり出ていてこそ、はじめて受けてはその内容を正確につかむことができる

    この本は絵がただ上手になることだけを目的にするものではありません。いかに見つめて深く入り込むかによって、人間とは何なのかということがわかるようになるために、この教科書がある

    ものをつくるには、試行錯誤があたりまえで、無駄なことをするのは不可欠。自分の手でつくることの大切さは、つくるプロセス、考えること

    子どもに理解させるというのは、子どもを甘やかすことでもないし、迎合することでもない

    アトリエの中で、いかにも苦脳しているような、ゲイジュツ家風を、私は純粋だとはおもっていません。せめてこどもや若者たちの社会とのつながりに、私が役立てたらと思っている

    ほんとうに無駄を、こどもたちにさせてやらなければならないと思っていません。考えながらものをつくる人間

    知識と人格の統一した人

  • おそらく対談やインタビューを本にまとめたものですが、どのページもすばらしい。
    芸術論をぶってるわけでも、教育についてうんちくを語ってるわけでもなく、芸術家の立場で心から感じていることを話されているだけで、こんな心に迫るメッセージはないと思います。

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著者プロフィール

佐藤忠良

「1998年 『おおきなかぶ ロシアの昔話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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