- Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000073615
作品紹介・あらすじ
描かれた奇怪な「河童」の国は、戯画化された昭和初期の日本社会そのものであり、また生活の上からも創作の上からも追いつめられていた作者(一八九二‐一九二七)の不安と苦悩が色濃く影を落としている。この作品を書き上げた五ヵ月後、芥川は自ら命を絶った。同じく最晩年の作「蜃気楼」「三つの窓」を併収。
感想・レビュー・書評
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☆3 水無瀬
芥川版ガリバー旅行記。構図としては人間社会に対比される別社会、であるが、馬の国よりも河童はもっと戯画的であり、理想社会ではないところがさすが根暗な芥川。暗いばかりでなく全編おかしみが漂っている茶目っけのある書きぶりが芥川短編の傑作である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
河童は昭和初期の世相を戯画したというが、言葉の通りでは無さそう。
当時の時代の『新時代として悪化した面』と『旧時代から変われない悪い面』が組み合わさるから、懐古主義とも言えない。
更に河童社会に『自己の自虐的自画像』まで反映させる。実に多義的。
そのように、すべての否定的な側面を詰め込んだのかな、と思いきや『希望』まで詰め込む。それは生活教など、動物的なエネルギィの回復。最後に主人公が河童の世界を求めるようになるところを見ても、やはり作者の意図は河童の否定ではないのだ。
礼儀や道徳が崩壊した後の、ニイチェ的なエネルギィに溢れた世界を求めたのでしょうか。
そんなわけで、河童の社会の特徴が具体的に何を批判していたのかは、専門書を読まなければわからんのでしょう。風刺の対象が、新時代か、旧時代か、芥川自身か、それとも風刺ですらなく希望なのか。最後に希望が残るという一点をもって、この作品はパンドラの箱とも言えると思います。