動く大地、住まいのかたち――プレート境界を旅する

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 62
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000222358

作品紹介・あらすじ

大地は動いている。地球の地殻を構成しているプレートは、それらの衝突、沈み込みによって大地の形を大きく変え、地震や噴火を引き起こす。動く大地は、日本を含むユーラシアのプレート境界域に何をもたらしたのか。本書は、環境を創造し、時に人間社会を壊滅させるプレート運動の驚異的なエネルギーと、その大地で生き抜く人々の叡智と暮らし、環境に応じた居住文化の姿や社会のあり方を、豊富なカラー写真、図版とともにありのままに活写する。インドネシアから、インド、ネパール、イラン、トルコ、ギリシア、マルタ、イタリア、アフリカ北部に及ぶ広大な地域を巡歴し、人間そして社会の存立条件を捉えなおした類を見ない建築論的旅の記録。

感想・レビュー・書評

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  • 建築や都市を考えるとき、その根幹となる「大地」の存在を見落としていたことに、本書を通して気付かされた。
    そもそも、この地球の運動会の上に人間が生活しているという当たり前のことをいま一度考えさせられる。

    プレート境界に文明が栄えたことなんて考えたこともない。視点が面白い。

    石灰石、凝灰岩は堆積岩であり、それはまさにプレート境界に隆起する岩質で、その柔らかな石に人が住まう。

    岩の種類なんて、高校の地学で暗記したくらいで、まったく理解していなかったけど、とても興味深いなぁと思った。

    集落は、住居の材料を近くで取れることが必須ということも、今の施工環境とは違うのだから当たり前だけど、そんな想像力も持ててなかったなあと反省。

    伝統的なまちでは、素材や施工に面白さがあるなあと感じた。


    p.s.
    転職までの休暇期間に、東北をレンタカーで回る旅の友に本書を手に取ったことは幸運だった。三陸で見た猛々しいリアス海岸や、白神山地の日本キャニオンなど、プレート境界や動く大地を考えることができたのだった。

  • 2017-4-4

  • タイトルや主題からして読んでみたくなって読んだ。
    だが、主題にはあまり触れられない。筆者が、プレートのぶつかる境界線上を旅して回る。文章は、言葉少なで説明が全くと言っていいほど無い。紀行文のよう。だからもっと論じて欲しかった。
    私みたいな素人だと、普通の紀行文じゃん、と思われてしまいそう。それとも、私には読み取れない、れっきとした論が展開されていたのかもしれない…

  • (01)
    旅行記というスタイルに多くが託されているとも感じた。
    旅行記は、居ながらにして読む側から都合よく解すれば、読者の代わりに見知らぬ土地を廻ってくれた著者の体験の一部を、読者が感じ取る類の雑記である。紀行文の集まりでもある。旅行記は、著者と読者それぞれの聞き方、見方、読み方、味わい方が試される場でもある。気候、風土から入って、現地の衣食住の紹介、政治、社会、経済などにも立ち入り歴史や人の性質まで言い及ぶ旅行記(*02)もある。実用的なガイドブックとの類似もある。
    本書では、とりわけ、土地の地質と地形に注目し、それらの相観を経て、大地から派生する石、土、草、木、繊維など、バナキュラーな資材(時にはグローバルな二次製品)で組み立てた住まいと住まい方に即した旅行を記した書である。
    とはいえ、古めかしさやよき伝統ばかりを取り立てた旅行ではなく、住まわれる土地が動いてしまうこととどこかで通じていて、それぞれの都市や村落での住まい方もあまりにダイナミックであること、生き生きと動いていること(*03)に、著者を通じて読者は驚嘆させられる。時には、大地の動きである地震や噴火にともなう災害に応じて住まうこともあるし、また別の時には、政治や権力に応じた住まいを余儀なくされることもあるという具合に。住まいをただし、立て直しながら。

    (02)
    しかしながら、本書の著者の筆致はじゅうぶんな余白を残しており、現地での体験がない読者の想像は掻き立てられる。著者に与えられた余韻に対し、読者なりの事情をもって応じ、住まうことのイメージを補い、文脈を取り繕う必要がある。
    そんなとき、もしかすると、本書に記された現地の人たちや同行者たちの発言のあれこれが、たぶん意図的に足りていない著者の説明をブリコラージュしてくれるかもしれない。
    断片的にでも本書を摂取したいという急ぎ足の読者もいるだろうか。モノクロもありカラーもある写真、地図や平面図や断面図やダイアグラムとその解説、各々の住まいや村や都市についての記述、特定の章や部だけを、とりいそぎ眺める読者があるかもしれない。それは読者各位の事情でもあるが、通読を通して、それぞれの大きさをもつ断片どうしが響き合うこともあるだろう。また、章立て部立てに付けられたオチの余韻を味わうためにも、読みものとして、続きものの一連のシリーズとして、読むことも勧められる。
    ヒマラヤとインド亜大陸にある境界、ザグロス山脈に沿った境界、地中海を走る境界、その南のアフリカ側に寄った境界、そして太平洋に戻りインドネシアの島々をめぐりつつ赤道付近をわたる境界(*04)、大地をなすプレートも断片であり、旅程の糸と著者の針はそれらを縫い合わせるのであって、通読によって結ばれるかたちや繕われる像もあるだろうと思う。

    (03)
    動的な住まいには、住み継がれ、転用などもありながら、そのときどきの住まいのレイヤが重ねられるパタンがある一方で、人口の移転や流動にともない、廃棄され廃墟にもなり、歴史的には遺跡となり滞っている住まいやかたちの跡というパタンもいくつか紹介されている。パルテノンやペルセポリス、カッパドキアといった世界遺産クラスの著名な遺跡も登場するが、この旅行の文脈に沿ってみれば、公式な登録にあるクライテリアとはまた別の輝きが解き放たれるようでもある。

    (04)
    これらの境界はプレート境界として日本列島にも続いており、著者の旅行の発端にあった動機もそこから起こされている。
    人類史、様式史における直截な関連はともかく、この列島から眺めたプレート境界の世界は、それでいてどこか懐かしいようでもある。この列島には砂漠も内陸も高地もほぼないようなものだけれど、土や石や草や木に埋もれ,それらで繕われている住まいには、この島にすむわたしたちも心が動かされるところがあるし、無分別の様でいてコードもある様でもある内的分化を遂げた都市の路地に迷い込みたくなる心性が,この島のわたしたち日本人にないわけでもない。
    こうした心因だけでなく、本書で紹介された具体的なかたちと解かれた意味も、山島とも称される日本列島にあるかたちたちに示唆を与えるところは大きい。
    恣意的に書き出せば、採石採土による地形の改変とその前後の転用の模様、火山岩がなす突兀と跌宕の風景に導かれる象徴性、石積みの手際、巨石の立て石とその組み立てに利用された球石、草屋根の舟の様な棟の形状、などなど。

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著者プロフィール

1965年生まれ。歴史工学家。早稲田大学理工学術院建築学科教授。

「2015年 『応答 漂うモダニズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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