- Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000230292
作品紹介・あらすじ
司馬遼太郎の『坂の上の雲』を歴史家はどう読むか。祖国防衛戦争としての日露戦争観、「明るい明治、暗い昭和」、そして様々な史実との向き合い方…。国民的作家が自ら「事実に拘束されることが百パーセントにちかい」としつつ執筆したこの歴史小説のどこに注目すべきか。近年の史学界の研究成果も交えながら、冷静かつ多角的に論じる。
感想・レビュー・書評
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司馬さんの『坂の上の雲』を読んだのはだいぶ以前のことですが、前半の秋山兄弟や正岡子規の青春時代が描かれている部分が特に印象に残った思い出があります。史実を踏まえつつも司馬さん特有の解釈や講釈がふんだんに散りばめられていて、それが作品の大きな魅力ともなっています。ただ、気になったのは「こんなに心おどる思いで近代日本の歴史小説を読んじゃってていいのか?」というなんだか落ち着かない感覚です。小説だからそれ相応の脚色も許されるとは思うのですが、こんなにワクワクした思いで、日清戦争や日露戦争についての物語を読んじゃっていいんだろうかという「きまりの悪さ」がどうしても残ったんですね。
中村政則氏の最新刊は、この「きまりの悪さ」のゆえんがどこにあるのかを明快にしてくれる本でした。たとえば、中村氏は本書で次のように言います。
「……司馬の美学が歴史の事実の選択を恣意的で、作為的なものにした。日本人にとって辛くて暗い事件は意識的に切り捨てようとした。それを書けば、読者が逃げる。読者を満足させることができないことを彼は知り抜いていたのである。」(p.220)
読みやすいし、実証的だし、最新の歴史学の知見も披露されているし、結論から言えばこの本はほんとうにお勧めです。原作を読み直し、ドラマを鑑賞する上でも、実に貴重な指針を与えてくれる良書だと思いました。