- Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000244343
作品紹介・あらすじ
パースの知られざる宇宙生成論の哲学を、未完の著作と断章から再生させる。現代宇宙論のモデルに近い進化論的な多宇宙のヴィジョン誕生の秘密-パース宇宙論の独創性を育んだ土壌を、エマソンやジェイムズ父子らによるアメリカ・ルネッサンスの思想圏に探り、数学的形而上学として生成した、その「早すぎた」ヴィジョンの核心部に、純粋数学への憧れと詩的・神話的想像力の冒険という二つの局面から迫る。もっとも美しい算術のシステムと表裏の関係にあるパースの宇宙像-それは機械論的世界観をはるかに超え、ビッグバン宇宙論や量子コンピュータを使うアルゴリズムにすら親近するものであった。同時代の水準を抜いて先駆けた詩的・数学的知性の夢を追体験する。
感想・レビュー・書評
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チャールズ・サンダース・パースの宇宙論,これを主題とするまとまった研究業績や著作はこれまで皆無に近いようです.このことはパースの未完の論考や多くの著作にちりばめられたアイデアから,その宇宙論のヴィジョンを再構成することの難しさに由来するだけではありません.パースの思考に,論理学的・数学的探究と,詩的・神話的イメージとが渾然一体となって編み込まれていることにも,その一因があると思われます.
伊藤邦武先生は,未完の著作「謎への推量」をはじめ,宇宙論に関係するテキストを精細に解読する作業の一方で,パースのヴィジョンの骨格を形作っているものの由来を,エマソンやジェイムズ父子(ヘンリー,ウィリアム・ジェイムズ)の精神圏に探り,またフランス象徴詩やスウェーデンボルグ主義をも参照しつつ,一つの「宇宙生成論の哲学」をイメージ豊かに再生させてゆきます.
19世紀末,相対性理論と量子論の登場を間近に控えた時代にあって,物理学の根本的な革命の予感に導かれた科学方法論の検証として,またある種の形而上学的思弁と宗教思想によっても動機づけられた,理論的アマルガムとして提出された「ヴィジョンとしての宇宙論」――機械論的世界観をはるかに超え,進化論的で多宇宙論的な,現代の宇宙論に親近する内容をもった「早すぎた宇宙像」の秘密とは.
処女作『パースのプラグマティズム』(剄草書房,1988)を上梓されてから18年が経過しました.その間,伊藤先生は『コスモロジーの闘争』(編著,新・哲学講義5,岩波書店,1997),および『偶然の宇宙』(双書・現代の哲学,岩波書店,2002)という宇宙論の哲学にかかわる二著をまとめられています.前者は,宇宙論とその哲学的表現との関係を論じられた論考,後者は,ビッグバン宇宙論をはじめとする現代のコスモロジーの哲学的・人間学的含意を主題とされた書下しです.
パースの哲学に一貫して関心を集中されながら,その一方で神話的コスモロジーから現代の進化論的多宇宙論まで,それぞれの宇宙の描像を哲学的・論理学的に検討する方法を鍛え上げてこられたわけです.本書は,二本の道筋が交差する地点に結晶しました.あるいは,これまで描いてこられたパースの思想のもっとも奥深くに秘められた核心に,「宇宙生成論の哲学」という名を与えられた作品というべきかもしれません.
プロローグ ヴィジョンとしての多宇宙論
第1章 エマソンとスフィンクス――「喜ばしい知識」の伝道師
第2章 一,二,三――宇宙の元素
1 ケンブリッジ・プラトニズムの影
2 パースのキャリア
3 宇宙の元素
第3章 連続性とアガペー――宇宙進化の論理
1 進化論的宇宙論の中心課題
2 連続体のなかを泳ぐ
3 創造する愛/形成する愛
第4章 誕生の時――宇宙創成の謎
エピローグ 素晴らしい円環詳細をみるコメント0件をすべて表示