ワ-キング・プア: アメリカの下層社会

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (404ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000257596

作品紹介・あらすじ

働いても働いても生活できない、それどころか、勤勉に、つましく暮らしているのに、貧困の悪循環に陥り、生活がますます苦しくなっていく…。本書では、人々の生活を日々支えているにもかかわらず、人々の目に入らず、打ち捨てられてきた、アメリカのワーキング・プアの実態を詳細にレポートする。ピューリッツァー賞受賞の実力派ジャーナリストによる迫力に満ちた告発から、新自由主義経済の片隅で何が進行しているのか、その実像が見えてくる。出版されるなり、たちどころにベストセラーになった話題の書。

感想・レビュー・書評

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  • 本書には創作した登場人物はいない。クライマックスも物語の終わりもない。人生は未解決のまま続くのである。(序章より)
    貧困は出血している傷口のようなものである。防御力を弱め、肉食動物を引き寄せる。
    民主主義ほどひどい政治体制はないが、これまで試みられてきた他のすべての政治体制よりはまし、とウィンストン・チャーチルは言った。無慈悲で適者生存や弱者の困窮を促進させるような冷酷な競争意識を伴っている。従業員の健康や環境や福利を保護するための規制はアメリカの政界で常に議論の的になってきた。規制は私企業を抑圧し、競争や成長の余地を奪うと考えられてきた。
    同時多発テロで命をおとした人の補償金はその人の稼ぎに応じて支払われた。命には値段がついているのだ。
    女性が働くときには、保育所や衣服などの経費を伴う。
    たくさんたくさん取材し、序章で述べられた通りそれぞれの話は解決しないで終わっているのだが、章ごとにテーマがまとまっている。この貧困の問題はどこからでも手がつけられるし、どのテーマで改善があっても必ず誰かの人生を少し良くする。例えば子供の栄養問題だったり、虐待だったり、労働者の保護だったり。この本を読んでつくづく社会は格差をなくすことに資本を向けるべきだと感じた。貧しい地域の子供たちが「若いときは小児科医として働いて年を取ったら考古学者になりたい」なんて無邪気に将来の夢を語るのに、実際はほとんどの子が高校を中退し大学には行けない現実。子供は実の親より養父母の学力に近づくという事実。すべての子に同じ可能性が与えられ、歳費は貧しい地域の学力を上げ、福祉を充実させることに使われるべきなのだ。

  • 自由な国アメリカで働いても働いても貧困から抜け出せないワーキング・プアの人々がたくさんいる。お金がないから教育も受けられず、教育がないから高賃金の職につけず、その繰り返しの中に閉じ込められてしまっている。いまの日本も同じような状態に陥っている。国民皆保険といっても、年々保険料が高くなり、無保険の人たちが発生している。大学を出ても正社員になれず、非正規社員のままで年を重ねていく。格差が開いていくことで国がきしんでいく。低所得者ほど選挙にいかないという。政治を変えるには選挙でかえるしかないのに。選挙権が18歳からと決まった。政治を冷笑するのではなく、見張っていかなくてはいけない。

  • 2007(原本2004)年刊行。今でこそ「ワーキングプア」は社会的な認知を得た用語だろうが、その嚆矢ともいうべきが本書。著者は広範なリサーチ・インタビューを通じ、非常に詳細な具体例を提示しつつ、米国貧困層(相対的貧困)、ワーキングプアの実像を明らかにする。黒人・ヒスパニックなどのマイノリティへの偏見等、種々の要因があるが、①就学ローン(特に大学)、②若年層・在学生への職業教育の不備、③健康保険・社会保険・雇用保険等、皆保険制度の不存在、④最低賃金制度の不備と違反者へのペナルティの存否などが関わるか。
    家族の問題(シングルペアレントが典型)、(性的も含む)虐待、薬物も同様か。◆とはいえ、現在は、他の簡明な書もあるため、本書からの新たな気付きはそれほど多くはない。◆しかし、実例は細かい。換言すれば、先駆的書籍の宿命として、実例を豊富に適示する必要に迫られていたという感想を持つところ。それゆえ、確かに読みにくいけれど、短所とはいえない。

  • ー働いているのに貧困であることは、互いに増幅しあう一群の困難の所産である。-ー貧困の淵で働く人々は、アメリカの繁栄に欠くことのできない人たちではあるが、彼らの幸福は社会全体のなかで欠くことのできない部分としては扱われていない。-

  • 社会システム、個人、階級、金...
    すべてが複雑に絡まって存在するのが貧困
    働いたから、金を渡したから...ではない
    「すべて」を変えて、「すべて」を救済する
    働いても生きられない、苦労して死ぬ
    悲しい

  • 「老朽化しきった二軒の木造家屋とは異なり、バラック作りの宿舎が、そもそも一つの機能を果たす目的のもとに作られたのは明らかだった。所有者が誰であろうと、この殺伐とした建物を設計したとき、その人物には自分のしていることが分かっていたに違いない。なぜならそこには、その構成からして、労働者を収容し、彼らの尊厳を踏みにじる以外の目的はありえなかったからである。それは古い建物ではなかったが、ただ背筋が凍るほど効率的な作りになっていた。キッチンにはガスコンロ一台が据えられており、繁忙期に請負業者が持ち込む、もう五台分用のホースの差込が付いていた。食堂兼共同部屋には二台のピクニック用テーブルが置かれ、壁には掲示板が掛けられていた。〜略〜。清掃や修理が一度でも行われた形跡は皆無で、プライバシーや快適さはおろか、未開の村落などで見られるような、貧しさゆえの簡潔さが醸し出す静寂さえ、そこにはなかった。ここでは、労働者たちが、種や肥料よろしくキープされ、収容され、保管されていたのである」

    「ある国について学ぶには、刑務所や病院、学校を訪ねるのが最適だと考えることが、私にはよくある。そうした施設の内側では、その国の社会のものの見方や倫理観が、理想を背景にした形で、くっきりと映し出される」

    「成功に不可欠なのは、営利企業とNPOの共生、つまり、双方が恩恵に浴することである」

  • 働いても働いても生活できず、つましく暮らしているのに貧困の悪循環に陥っていく…。アメリカのワーキング・プアの実態を詳細にレポートし、新自由主義経済の片隅で何が進行しているのか、その実像に迫る。(TRC MARCより)

  • これまた友達宅にあったのを漁りだして読んだ。
    一番裕福なはずである米国のギリギリな貧困層の実態にせまるんだけど、綿密な取材に基づくドキュメンタリーのような感じで、実際ワープアと呼ばれる人々がどんな思いを抱きながらその日その日をしのいでいるかとゆうのがよくわかります。
    このワープアなる階層が生み出される理由ってのはいくつもあって複合的なんですね。人種や生まれた環境とか公教育の崩壊っぷり、それに性的虐待とか。おれはこの幼少期の性的虐待がちょっと信じられなかった。
    それと宗教や健全な家族の果たしうる役割ってのが、悲惨な話の中に少し垣間見れた気がします。人には愛が必要なんでしょう。
    今日本の経済状況も悪くなってきてワープアってのが大きな話題になってますね。この本の中身も他人事ではありません。

  • 分類=経済・経営・労働・ワーキングプア・アメリカ合衆国。07年2月。

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