大衆化する大学――学生の多様化をどうみるか (シリーズ 大学 第2巻)

制作 : 広田 照幸  吉田 文  小林 傳司  上山 隆大  濱中 淳子  白川 優治 
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000286121

作品紹介・あらすじ

二〇一〇年代に入り、大学進学率は五〇%を超えた。基礎学力が不足している学生に対する教育の困難さが浮上し、大学が多すぎるという批判も噴出。また、拡大を続けてきた大学院教育のゆくえにも注目が集まる。そして大学の大衆化と労働市場の関係は?多様化と序列化が進む大学の未来を展望する。

感想・レビュー・書評

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  • ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB12192511

  • 大学というのは、いつの時代も批判に晒されているようだ。その内容は時代・国によっても様々である。近年では、大学の「量的拡大」を軸に整理したマーチン・トロウの「高等教育発展段階論」が諸問題の整理に有効である。大学進学率が拡大すると、「エリート段階の教育」と「大衆のための教育」が必要となるのである。

    このような観点から、日本では大学の「種別化」「多様化」が幾度となく遡上にあがってきたが、実現はしなかった。その理由として、エリート教育の現実やその目指すところに嫌悪の念を抱く「敵」の存在、大学院教育が質・量ともに充実できない大学内外の問題などがある。また、法律上は「職業又は実際生活に必要な能力の養成」は大学の目的として規定されておらず、より威信の高い大学への転籍を期待し、自らの研究により関心が高い教員が多い背景などがある。

    結局日本は「単一化」を維持したまま、自由な競争状態を作り出すことで、資源(財源)が弾力的に再配分されるようなシステムを選んだのである。評価と競争を原理とすることで、結果として「多様化」「階層化」へと向かうと期待されたのだ。そしてこのような「階層性」は、日本の社会にとって「機能的」なものになるはずだった((技術)機能主義理論)。しかし、それは所期の成果を上げているのだろうか。

    基本的なことであるが、大学は社会が必要として生まれてきた制度である。つまり、社会が変わらなければ大学も変わらない。社会、とりわけ日本の大企業の人事政策(慣行)が大学教育の量的拡大、質的向上を阻んでいる事実を真摯に受け止めなければならないであろう。ここに、「機能主義理論」が当てはまらない「日本的大学階層システム」の謎の原因が見え隠れするからである。

    最後に、大学院の量的拡大を阻んでいる要因をひとつだけ挙げておきたい。それは、日本の企業が求める本音の人物像を踏まえると、大学院教育で鍛えられる「批判力」、そしてその獲得と引き換えに「失われている素直さ」こそが、企業に敬遠される理由になっているということだ。逆に言うと、研究を通して「素直さ」や「相手に対する十分な理解」を示す態度を身につけることができれば、大学院教育は今以上に企業から評価され得るということだ。本来、相手をリスペクトする気持ちと「批判」は表裏一体となって、研究は進むものであるはず。その点では、企業側がいう、大学院(特に文系)の教育力不足は、大学側も謙虚に受け止めなければならないのだろう。

  • 2013年6月に実施した学生選書企画で学生の皆さんによって選ばれ購入した本です。
    通常の配架場所: 開架図書(3階)
    請求記号: 377.04//Se83//2

    【選書理由・おすすめコメント】
    大学進学後、どうするか考えたいと思ったため。
    (理学部 化学科 1年)

  • 大学が大衆化したことは誰もが知っている。先行研究も十分にある。一読して、この理解は誤りとは言わないまでも、認識を改めるか、異なった視点を持つ必要があることがわかるのに、それほど時間を要さなかった。所収されているいずれの論稿もアメリカ発の理論ではなく、“日本の”大学教育の場から発信している。違った言い方をすれば、現場の感覚に近い、という感じだろうか。定番のトロウ・モデルを当てはめて大学の大衆化を説明されるより、納得の度合いが違うともいえる。また大学ユニバーサル化における私学の役割の大きさは幾度となく指摘されるものの、実状を丁寧に踏まえ、かつこうして体系を整理した論集は少なかったように思う。参考となったものは、濱中(義)、居神、苅谷の以下の3本。

    濱中義隆「多様化する学生と大学教育」P.47-74
    居神浩「マージナル大学における教学改革の可能性」P.75-103
    苅谷剛彦「高等教育システムの階層性―ニッポンの大学の謎」P.163-193

    参照条文
    ○学校教育法
    第八十三条  大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。

    第百八条  大学は、第八十三条第一項に規定する目的に代えて、深く専門の学芸を教授研究し、職業又は実際生活に必要な能力を育成することを主な目的とすることができる。
    ○2  前項に規定する目的をその目的とする大学は、第八十七条第一項の規定にかかわらず、その修業年限を二年又は三年とする。
    ○3  前項の大学は、短期大学と称する。

    参考 38答申 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_chukyo_index/toushin/1309479.htm
     すなわち、大学は、一方では、激しい国際競争に対処し、絶えざる社会の進歩の要求にこたえて、高度の学術研究を行ない、わが国の文化の維持向上に寄与するという、その伝統的使命を保持するとともに、他面では、民主社会の発展に伴う教育民主化の要望にこたえて、広い階層の人々に高い職業教育と市民的教養を与えるという新たな重要な任務を果たさなければならない。それと並行して、高等教育の対象が、選ばれた少数者から、能力、特性等において幅のある広い階層へと変わつてきたことをも注意しなければならない。
     新制大学の制度は、戦後における教育改革の一還として、学術研究、職業教育とともに、市民的教養と人間形成を行なうという理念に基づいて発足した。しかるに、実施後十数年の実績をみると、所期の目的が必ずしもじゆうぶんに達成されていない。そのよつてきたる重要な原因の一つは、わが国の複雑な社会構造とこれを反映するさまざまな実情にじゆうぶんな考慮を払うことなく、歴史と伝統を持つ各種の高等教育機関を急速かつ一律に、同じ目的・性格を付与された新制大学に切り換えたことのために、多様な高等教育機関の使命と目的に対応しえないという点に求められる。

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著者プロフィール

大学院教育発達科学研究科教授

「2022年 『名古屋大学の歴史 1871~2019 上』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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