亜鉛の少年たち アフガン帰還兵の証言 増補版

  • 岩波書店
4.20
  • (17)
  • (21)
  • (6)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 341
感想 : 39
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000613033

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 読みたいけれど読めない本
    戦争のむごさ、人間のむごさを証人の話として書いてある。残って行ってほしいけれど、わたしには読めない本。

  • 毎日新聞2022716掲載 評者:伊藤亜紗(東工大リベラルアーツ研究院教授,現代アート)
    読売新聞2022821掲載 評者:国分良成(慶應義塾大学法学部教授,政治学)
    読売新聞2022826掲載
    週刊金曜日202292掲載 評者:高原至(批評家)
    朝日新聞2022917掲載 評者:藤原辰史(京都大学人文学部研究所准教授,農業思想史etc)
    読売新聞2022109掲載 評者:沼野恭子(東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授,ロシア文学,比較文学)
    毎日新聞20221217掲載 評者:伊藤亜紗(同上)
    朝日新聞20221224掲載 評者:藤原辰史(京都大学人文学部研究所准教授,農業思想史etc)
    東京新聞20221224 評者:梯久美子(ノンフィクション作家)
    読売新聞20221225掲載 評者:国分良成(慶應義塾大学法学部教授,政治学)
    日経新聞2023218掲載

  • 986-A
    海外文学コーナー

  • 1970年代末から80年代末にかけて行われたアフガニスタン侵攻の関係者たちによる証言集。奇妙なタイトルは戦死者たちが亜鉛で密封された棺に入れられて帰ってきたのにちなんでいる(密封されているから遺族は遺体と対面できなかった)。この戦争は当初政府が宣伝していたような国際友好では全然なく侵略戦争だった。犠牲者たちは各々にとっての真実を語る。戦闘中の悲惨な体験、息子や娘を亡くした悲しみ、帰国後の偏見への怒り、徒労感、虚無感。ある者はアフガニスタンを忘れたいと言い、ある者は戻りたいという。多種多様な声、声、声。読みながら何度も戦慄し、何度も同情の涙が出た。この部分だけでも優れたドキュメントだが、補足資料の裁判記録が文学者への政治的圧力、昔も今も権力者によって搾取される弱者、作家の社会的意義などを問う内容で、ドキュメンタリー文学の枠を超えた多義的な作品になっている。ロシアによるウクライナ侵攻が続く今、この証言者たちの声はどこに消えてしまったのだろう。

  • アフガニスタンから帰還した者たちが語る、現地で遭遇した女性たちのエピソードがいずれも衝撃的なので記しておく。

    バグラム近郊で……集落によって、なにか食べさせてほしいと頼んだ。現地では、もしお腹を空かせた人が家に来たら、温かいナンをごちそうしなきゃいけないっていう風習がある。女たちは食卓に案内し、食べ物を出してくれた。でも俺たちが家を去ると、その女たちは子供もろとも村人たちに石や棒を投げつけられ、殺されてしまった。殺されるのをわかっていたのに、俺たちを追い払わなかったんだ。それなのに俺たちは自分たちの習慣を押し通して……帽子も取らずにモスクに入ったりしてた……。(p.67)

    初めての手術の患者はアフガン人のおばあさんで、鎖骨下の動脈の負傷でした。でも医療用鉗子が見当たらない。足りてないんです。仕方ないから指でつまみました。それから縫合材を探して……絹糸を一巻き、二巻きと手にとったけど、どちらもぼろぼろに崩れてしまって。どうやら昔の、一九四一年の戦争のときからずっと倉庫にあったものだったみたい。
    それでもその手術は成功したんです。夕方、外科医と一緒に病室を見にいきました。具合がどうなっているか知りたくて。おばあさんは目を開けたまま横になっていて、私たちを見ると……唇を動かして……きっと、なにか言いたいのだと思いました。お礼を言いたいのだろうと。でもそうじゃなく、私たちに唾を吐きかけようとしていたんです……。そのときはまだ、彼女に私たちを憎む道理があるなんて知らなくで。なぜだか愛されるはずだと思っていました。だから唖然として立ち尽くして──助けてあげたのに、この人はいったい、って……。
      …………………………………………
    考えてみれば……自分に訊きたいんだけど……どうして私は恐ろしいことばかり思い出すのかしら。友情も信頼もあったし、勇敢な行為もあったはずなのに。もしかして、あのアフガンのおばあさんが気になるせい? わからなくなるの。治療をしてあげた私たちに、唾を吐きかけようとした。あとになって知ったんだけど……あのおばあさんはソ連の特殊部隊(スペツナズ)に襲撃された集落から連れてこられたんです……。おばあさん以外は全員亡くなった。集落全体でたった一人の生き残りだった。でもその前に、その集落からの攻撃を受けてソ連のヘリが二機、撃墜されていて。焼け焦げた操縦士たちは熊手(フォーク)で刺されて……。だけどそれよりももっと前、最初の最初には……。でも私たちは、そんなに深くは考えなかった。どちらが先で、どちらが後かなんて。ただ味方を憐れむだけでした……。(p.244, 246)

    「待て! みんな動くな!」少尉はそう呼びかけて、川辺にある小汚い包みを指さした。「地雷か?!」
    先に立って進んでいた工兵が「地雷」の疑いのある包みを持ちあげようとすると、包みが泣き声をあげた。赤ん坊だったんだ。アフガンめ、恨んでやる!
    どうしたらいいかって話になった。置いていくか、連れていくか。誰に言われたわけでもなく、少尉が自ら送る役を買ってでた──
    「置いていくわけにはいかないな。飢え死にしてしまう。私が集落に連れていこう、近いし」
    俺たちは一時間その場で待っていたが、集落へは車で二十分ほどで行って帰ってこれるはずだった。
    少尉と運転手は……砂の上に倒れていた。集落の中で……。女たちに鍬で殺されたんだと……。(p.278)

    幸運にも五体満足の状態で帰還した三人の証言者たちは、一様に現在の日常生活への適応不全を訴えている。
    別の証言者の中には、機会があれば再度アフガニスタンへの派遣を望んでいる者さえある。行きたいから行くのではない。薄皮のように淡い約束事の重なりからなる日常に、一度戦場を経験した精神が堪え得なくなっていて、一刻も早くそこから逃れたがっているようなのだ。

    考えてみれば、現地で人を殺すこともなく、一人の戦死者も出すことのなかったイラクに派遣された自衛隊員たちの何人かが、本国に戻ってから自殺したことが思い起こされる。その率は、異様な高さである。
    日米同盟を盾にして派遣を決めた為政者は、国会での追及に窮して、自衛隊の行くところが安全地帯だと言い募った。
    後にジャーナリストの布施祐仁による情報公開請求によって一部明らかになった当時の日報によれば、彼らの宿営地近くにも着弾があった、文字通りの「戦闘地域」だった。
    証言者や、ほかならぬ本書の訳者のように、「ふざけるな!」といいたくなるのは私だけだろうか。「『安全地帯』というなら、お前のバカ息子をこの『セクシー』な場所に行かせて、一日体験させてはいかがか」と。

    著者アレクシエーヴィチは、本書初版の出版により、証言者の何人かから精神的な損害賠償を求められ、あるいは名誉毀損で訴えられる。
    本書のどこをどう読んでも、著者が帰還者たちを殺人者として非難したり、遺族たちを、身内を戦場に送り出した共犯者とみなしたりしている個所はない。
    著者が直接言及しているわけではないが、年端もいかぬ彼らを戦場に送ったブレジネフからゴルバチョフに至る為政者たちへの、静かな怒りが嫌でも伝わってくる。

    二代目の訳者奈倉有里の解説も、短いながら胸を打つ。

  • ロシアのウクライナ侵攻のいま現在読むのは苦しく辛い
    1979年から10年も続けられたソ連のアフガン侵攻
    膨大なインタビューをアレクシエーヴィチは帰還した様々な兵士、看護師や彼ら彼女の母から聞き取る。
    望んでアフガンへ行った者、騙されて行かされた者、
    ウクライナ侵攻のロシア兵士とおなじではないかと恐ろしい。簡単に人びとが殺されて、殺すことに疑問を持つもの持たないものも全て押し潰されてゆく。
    生きて故郷へ帰れた者も決して幸運だと思えない人生を送らざるをえない。むしろ彼らは戦場で死ねば良かったとさえ願いながら息を潜めて暮らしている。
    彼らもまたウクライナ侵攻のロシア兵士と同じく友好国へ交流のために派遣されるときかされていたみたいた。
    後半は著者の裁判記録もあり、ソ連ロシアでのアフガン侵攻がどう捉えられてるかも知ることができる。

    ほんの30年ほどまえの政治の最高権力者たちが大きな失敗をまた繰り返しすことの恐さを感じていたたまれない。

全39件中 31 - 39件を表示

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ソン・ウォンピョ...
小川 哲
ジョン・ウィリア...
スタニスワフ・レ...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×