- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000613798
作品紹介・あらすじ
円熟の古典落語,軽妙なマクラで,聴くものを魅了してやまない噺家・柳家小三治.本書では,生い立ち,初恋,入門,修業時代,落語論から,バイク,クラシック音楽,俳句,忘れじの人々まで,すべてをたっぷり語り下ろす.独特の語り口もそのままに,まさに読む独演会.芸と人生に対する真摯な姿勢が,初めて明らかに.
感想・レビュー・書評
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年末よい本に出逢うことができました。
今年亡くなった落語家 柳家小三治さんの2019年出版自伝。まるですぐそこでお話していらっしゃるようないなせな江戸弁でのあれやこれや。
軽妙ではありますが、小三治さんの生き様の芯に触れるような含蓄ある言葉がいくつも見つかりました。さすが人間国宝と言いたいところですが、こういう肩書等での価値判断を一番嫌がっていらしたのも小三治さんでしたね。
戦後苦労して学校長になった教育者である父親のもと厳格に躾けられた子ども時代。
母親に甘えることも褒められることも抱きしめられることもかなわず。
95点を取って帰ってきて、「なぜ100点を取れないのだ」「東大以外大学ではない」と父母から厳しいハードルを常に課されてきた心の奥にある寂しさが晩年になっても彼から拭い去れなかった事実が淡々と明かされます。
親が鬼籍に入ってなお親を受け容れられずにいた怒りや哀しみが隠すことなく、筆で綴られます。
また芸術や表現全般への想いも言い得て妙。よくぞという深さでした。
本文P.31より:
いちいち全部説明してやって、どうだ楽しいだろう、悲しいだろうっていうものじゃなくて。観ている人が感じざるをえない楽しさや切なさや悲しさ。それが湧き出てくるような噺ですね。
以上、抜粋。
さらに、彼の権威主義的な実家の環境に反発しての哲学に首肯しきり。
「みんながいいと思うものが必ずいいもんじゃねえぞっていう、反骨の精神でしょうか。(P.105)
中略
ただし、自分が素晴らしいって思い、人にも言えるためには、自分をそれだけ高めておかないとただのわがまま勝手になっちゃう。(P.106)」
彼は王道や正統を精進を重ねて自分の身体の中に確実に取り込んでいった。
だから小さん師匠に「つまらない落語」と評された過去の経緯があるのだと読み取りました。
独りよがりになる前にとにかく前へ前へ、上へ上へと辛抱を重ねて学びつくし、自分をまだまだ足りないと戒め、否定し続け(これらは彼の生い立ち由来と考えました)、晩年見えてきた景色こそ
「誰かのやっていること、行っていることが全部正しいと思っていたのが、いつの間にかそうじゃないんじゃないのか、と考える自分がいてもいいってことかな。(P.107)」
実に奥行きのある一言です。
それから私たちを常日頃悩ませる他者からの評価との向き合い方にも言及があります。
「(他者に)受けたい、受けたいっていう受けたいは『こうしたい』んじゃなくて、『人からこう思われたい』っていうもので、評判ばかり気にしている。そういうことじゃないんです。」(P.115)
自分が本当によいと思っている事柄と他者からどう見られるかを予測して選ぶ事柄には乖離があると気づくことは大切だなと改めて感じました。
談志さんへの評価は意外にも率直なもので苦笑しました。
噺家も様々な人がいるから面白い。
P.137より:
「世の中の人を悪い人といい人に分けて、自分はいつもいい人側にいる。その考えは違うなって思ってくると、落語も世間の人を見る目も変わってきた。」以上、抜粋。
自分も含めて、人間はかくも弱く、脆く。だから強がるし、見栄も張り、頑張って手に入れようと努力もする。
人はかくも強く、美しいけれども、これほどに残酷で容赦がない惨さも持ちうる。
生きる辛さの向こうには素晴らしさもあり、喜びの後ろ側には手放しきれなかったものへの執着も未練もあり。
この複雑さを小三治さんの言葉で再確認できた気がします。
ご冥福をお祈りいたします。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「本の雑誌」8月号の特集、「落語本で笑おう」を見て購入。
生い立ちや両親のことなどから説き起こしている。小さん師匠が稽古をつけないとか、へ~と思う処が多かった。
志ん朝が表面的な口調の巧さではなく、噺の中の人物の心で進めて行くと評しているのに感心する。談志に対する評価も、まあ、そうだよなと思う。
圓生に習いに行っていたけど、だんだん離れたということは初めて知った。
蒟蒻問答は、圓生からベースを習ったが、正蔵はほんとうはこうやるんだと仕草を教えてくれる。小さんはまた、別のことを言う。末廣亭でこの噺をかけていたら、楽屋で三師匠が黙ーって腕組んで聞いている。師匠の「まくら」にもあった話だけど、なんとも贅沢で大変困ったエピソード。
バイクやスキー、クラシック音楽の話も出てきた。
飄々としているけど、芸に対する気持ちなど知ることが出来て、この本読んで良かった。
師匠の「小言念仏」のCD探そうかな。あと、映画「バベットの晩餐会」も見てみたい。 -
柳家小三治の両親の話から始まる自伝
弟子入りから人間国宝になるまで、落語家同士や、若手の頃に支えてくれたたくさんの人たちとの交流が描かれていて、まくらを聞いているような楽しい気持ちになった
円熟期を迎えてからしか生の高座は拝見していないが、若い頃の映像も探してみてみたい
まだまだ楽しませてもらいたい噺家た -
落語好きには堪らない一冊。
途中に出てくる噺をYoutubeで聴きながら読み進めたが、師匠らしい語り口が随所に出てきて、とにかくいい❗️ -
人間国宝柳家小三治の自伝。上手いにとどまらぬ落語。森山良子との対談の際に「どうしてあんなにうまく歌っちゃうのか」と問いかけたことに端を発する考察が秀逸。「うまく演じようとした人に感心したことはない/うまくやろうとしないこと/じゃあ,下手なまんまでいいのかっていうと,そうじゃない/カラヤンには「本音で歌えよ」って思いますね」。
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朝日新聞への連載を書籍化したものに書籍化に際して加筆した、とのこと。そのためか、章立てや話の進みが体系的でなく、やや読みづらい。もっとも、これはこれでじっくり読むためと思えばよいのかもしれない。
両親、特に母親との関係や、談志さんや一之輔さんの評価が個人的には興味深かった。 -
先日、小三治が亡くなった頃、偶然、本屋でこの本を見かけました。どこからお話ししましょうか、という題なので、こちらは、どこから読みましょうか、とカバー写真の小三治さんに声を掛け、パラパラと拾い読み。小三治曰く、闘ってれば、そのうち答えが出てくるんですよ。闘わないやつは何も出てこない、と私は信じているのですけどねえ。小三治は、なかなかシブトイ(芯の強い)落語家でもありました。(合掌)★三つ半、四捨五入で四つです。
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