人間と宗教あるいは日本人の心の基軸

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000615051

作品紹介・あらすじ

極端なまでに政治権力と一体化した国家神道の時代への反動から、物質的繁栄を最優先し、「宗教なき社会」を築いた戦後日本。しかし二〇世紀型の工業生産力モデルは力を失い、コロナ禍の下、日本の埋没は顕著だ。「日本人の精神性とは何か」、イラン革命の衝撃、現代のバベルの塔たる米国、世界を歩いてきた経済人がいま問い返す。

感想・レビュー・書評

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  • 世界の4つの宗教(キリスト教、イスラム教、仏教、儒教)を概説し、その中で神道を含めた日本の宗教、心の在り方を語ります。
    著者は宗教の研究者ではないので、ご自身が学んだぎゅっと凝縮された1冊。ブックガイドとしても利用可能。
    個人的には、「神道」が整理できたのが一番の収穫。
    手元に置いて、宗教について知りたくなったときに取り出して読みなおすと理解が深まると感じた。

  • 世界史を宗教の視点から組み立て直す。20万年前にホモサピエンスがアフリカに誕生、6万年前からグレートジャーニーが始まり、3.6万年前ごろ日本列島にも新人が到達する。そうしたところから考察を始める。筆者はBC2500年ごろ、つまり今から3000年前に世界宗教としてユダヤ教、仏教、儒教が始まっていることに注視する。いずれも最終的に他者への配慮、愛を訴えるものとなるが、それは定住生活を営む上でやむをえなかったからではないかと筆者は見る。イスラム勢力はヘレニズム文化の後継者として、十字軍においてもヨーロッパにその優れた文化を見せた。さらに1299年に始まるオスマントルコはヨーロッパにとって脅威となる(1529年と1683年の2回に渡るウィーン包囲)が、それがインド航路開拓をもたらしたというのは非常に興味深い。
    本書では、日本と宗教の関係についても注目する。国家鎮護のための仏教から民衆のための宗教に変わった大きなターニングポイントは親鸞の浄土真宗である。禅宗は武家政権の保護を受けるも、江戸時代には統治機構としての仏教となり、形骸化が進んだとみるのが定説である。倒幕を支持する思想の源泉は、本居宣長にある。彼は儒学支配の行き詰まりを指摘し、古道への回帰を提唱した。近代国家としての装いを整える必要があった明治政府は国家神道を持ち出したが、富国強兵策を進めるにつれてそれは封印された。そこにはマグマがたまり、敗戦前の10年間、天皇機関説を巡る問題として現れる。「『天皇親政の国家神道へ』という熱気を放っていたのは、明治期の最初と敗戦までの最後の10年」という主張は興味深い。
    我々の深層には仏教・儒教・神道が横たわっていると筆者は言う。対外緊張や国難が意識されると、神道が前面に出てくるという歴史を見てきた。東日本大震災やコロナウイルスを経て、我が国の中には統合願望が強まっている。中国の台頭も相俟って、「やまとごころ」へ回帰するというナショナリズムが高まっていると筆者は締めくくる。

  • 東2法経図・6F開架:162.1A/Te63n//K

  • すごく面白かった。これは名著だと思う。世界を歩いてきた著者の「体験的宗教論」をまとめたものだが、宗教史の概説書としても読むことができる。
    随所に卓見があり、蒙を啓かれる。

    序盤では「人類史の中の宗教」が扱われるが、残りの約3分の2は日本の宗教史をさまざまなテーマ別に取り上げている。副題にあるとおり、「日本人の心の基軸」を宗教史の中に探し当てようとする試みなのだ。

    短い各章がそれぞれ独立した読み物になっているから、興味のあるテーマの章を試しに読んでみるとよいと思う。

    事実を列挙するだけの無味乾燥な概説書の、対極に位置する本だ。出来事が示す本質を鮮やかな一閃でつかみ取る、別々の事象の見えざる共通項を鋭く指摘するetc……。
    優れた知識人には宗教史がこんなふうにクリアに見えているのかと、驚かされる。

  • 162.1||Te

  • はじめに——三つのプロローグ
     1 ゴルゴダの丘への道——世界を変えた男の死について
     2 高野山・奥の院への道——そして本居宣長の鈴屋での黙考
     3 バベルの塔とニューヨーク摩天楼——そして日本近代史への想い

    Ⅰ 人類史における宗教——ビッグ・ヒストリーの誘い
     ビッグ・ヒストリーにおける人類史
     グローバル・ヒストリーへの入口を探って
     アイスマンの衝撃
     人類史における宗教の淵源
     世界宗教の誕生とその同時性

    Ⅱ 世界化する一神教——現代を規定する宗教
     キリスト教の世界化とローマ帝国——欧州史の深層底流
     キリスト教の東方展開の基点としてのビザンツ帝国
     中東一神教の近親憎悪イスラム教 vs.キリスト教、ユダヤ教
     イスラムの世界化とアジア、そして日本

    Ⅲ 仏教の原点と日本仏教の創造性
     仏教の原点と世界化への基点
     仏教伝来の道 漢字になった経典の意味
     仏教の日本伝来とは何か
     親鸞によるパラダイム転換——その仏教史的な意味
     日蓮——日本の柱たらんとする意識の意味

    Ⅳ キリスト教の伝来と日本——日本人の精神性にとっての意味
     宗教改革が突き動かしたもの——西洋史理解に不可欠の視界
     キリスト教の伝来と禁制
     織田信長時代におけるキリスト教と仏教の邂逅
     それからのキリシタン——江戸期の苦闘とその闇の中での光
     内村鑑三 キリストに生きた武士——明治期の知性
     「われ太平洋の橋とならん」——憂国の国際人、新渡戸稲造

    Ⅴ 神仏習合——日本宗教史の避けがたいテーマ
     江戸期の仏教への再考察——日本人が身につけたもの
     日本と天皇の始まり——天武・持統期の革命性
     中世における神道の形成——神道の本質を考える
     天皇と仏教——泉涌寺を訪れ、理解を深める

    Ⅵ 江戸から明治へ——近代化と日本人の精神性
     新井白石と荻生徂徠——時代と正対した二人の儒学者
     本居宣長とやまとごころ
     明治近代化と日本人の精神
     明治維新とは何だったのか——埋め込まれた国家神道
     国家神道による天皇親政という呪縛——埋め込まれた密教が噴出した昭和期

    Ⅶ 現代日本人の心の所在地——戦後日本を問い直す
     戦後日本——希薄な宗教性がもたらすもの
     鈴木大拙が戦後日本人に語りかけたもの——禅の精神と「世界人としての日本人」
     司馬遼太郎を必要とした戦後日本
     国家神道への視界——萌芽と展開、そして残影
     戦後日本人としての宗教再考——問われる新たなレジリエンス

    おわりに——一つのエピローグ 比叡山の星空を見上げて

  • はじめに――三つのプロローグ
     1 ゴルゴダの丘への道――世界を変えた男の死について
     2 高野山・奥の院への道――そして本居宣長の鈴屋での黙考
     3 バベルの塔とニューヨーク摩天楼――そして日本近代史への想い

    Ⅰ 人類史における宗教――ビッグ・ヒストリーの誘い
     ビッグ・ヒストリーにおける人類史
     グローバル・ヒストリーへの入口を探って
     アイスマンの衝撃
     人類史における宗教の淵源
     世界宗教の誕生とその同時性

    Ⅱ 世界化する一神教――現代を規定する宗教
     キリスト教の世界化とローマ帝国――欧州史の深層底流
     キリスト教の東方展開の基点としてのビザンツ帝国
     中東一神教の近親憎悪イスラム教 vs.キリスト教、ユダヤ教
     イスラムの世界化とアジア、そして日本

    Ⅲ 仏教の原点と日本仏教の創造性
     仏教の原点と世界化への基点
     仏教伝来の道 漢字になった経典の意味
     仏教の日本伝来とは何か
     親鸞によるパラダイム転換――その仏教史的な意味
     日蓮――日本の柱たらんとする意識の意味

    Ⅳ キリスト教の伝来と日本――日本人の精神性にとっての意味
     宗教改革が突き動かしたもの――西洋史理解に不可欠の視界
     キリスト教の伝来と禁制
     織田信長時代におけるキリスト教と仏教の邂逅
     それからのキリシタン――江戸期の苦闘とその闇の中での光
     内村鑑三 キリストに生きた武士――明治期の知性
     「われ太平洋の橋とならん」――憂国の国際人、新渡戸稲造

    Ⅴ 神仏習合――日本宗教史の避けがたいテーマ
     江戸期の仏教への再考察――日本人が身につけたもの
     日本と天皇の始まり――天武・持統期の革命性
     中世における神道の形成――神道の本質を考える
     天皇と仏教――泉涌寺を訪れ、理解を深める

    Ⅵ 江戸から明治へ――近代化と日本人の精神性
     新井白石と荻生徂徠――時代と正対した二人の儒学者
     本居宣長とやまとごころ
     明治近代化と日本人の精神
     明治維新とは何だったのか――埋め込まれた国家神道
     国家神道による天皇親政という呪縛――埋め込まれた密教が噴出した昭和期

    Ⅶ 現代日本人の心の所在地――戦後日本を問い直す
     戦後日本――希薄な宗教性がもたらすもの
     鈴木大拙が戦後日本人に語りかけたもの――禅の精神と「世界人としての日本人」
     司馬遼太郎を必要とした戦後日本
     国家神道への視界――萌芽と展開、そして残影
     戦後日本人としての宗教再考――問われる新たなレジリエンス

    おわりに――一つのエピローグ 比叡山の星空を見上げて

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著者プロフィール

1947年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究課程修了後、三井物産入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所に出向。その後三井物産ワシントン事務所所長、三井物産常務執行役員等を歴任。現在は日本総合研究所会長、多摩大学学長。著書に『人間と宗教』『日本再生の基軸』(岩波書店)、『ユニオンジャックの矢~大英帝国のネットワーク戦略』『大中華圏~ネットワーク型世界観から中国の本質に迫る』(NHK出版)、『若き日本の肖像』『20世紀と格闘した先人たち』(新潮社)他多数。

「2022年 『ダビデの星を見つめて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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