これはかなり勉強になった。エピクロス派、ストア派、ペリパトス派の3哲学について順番に「何を善(目的)とし、何を悪とするか」を焦点に概観し、そのあとキケローの批判が加えられる。エピクロス派については快楽を究極の善とするには無理があるとし、また快の状態と苦痛のない状態をひっくるめて「快」とすることを批判する。ストア派については富や健康などの益を高潔と同じように良いものとして扱いながらも言葉の上だけで善から除外し、高潔のみを善と言い張っていること、それら除外したものを軽視すること、徳や悪徳の程度の違いを認めないことを批判する。ペリパトス派については富や健康を善の一つに数え入れながら、病気や貧乏があっても賢者は幸福だとするのは矛盾していると言って批判する。
難しいところもあったが、概して平明に各派の主張がまとめてあって感服した。人間や動物が生まれた後に自ずと求めるもの(=自然と一致する生き方をするために必要なもの)は何か、というところから出発し、それに沿って究極の善(目的)を設定していくという当時のトレンドもわかりやすかった。これをギリシア語の原典等を参考にしながらラテン語で書いたキケローはものすごい。初めてそのすごさを感じた気がする。