犬になった王子――チベットの民話

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 28
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  • Amazon.co.jp ・本 (48ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001112429

感想・レビュー・書評

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  • チベットに伝わる民話。
    読みたくて読みたくて、図書館でリクエストして到着日を指折り数えて待った一冊。
    壮大なストーリーとそれはそれは美しい挿絵に、心を惹き付けられながら読むこと、約20分。
    長さと内容からして小学校の高学年以上かな。
    読み聞かせするには右手が痺れてきそうだが、頑張る価値があると思われる。

    舞台はチベット東北部のプラ国。主人公は、この国のアチョ王子。
    食べ物が少なくて貧しい民のために、美味しい穀物の種が山の神様のもとにあると聞いて、旅に出るのが始まり。
    しかしそれは、99の険しい山と99の川を越えて行くという、長く危険に満ちた旅。
    ようやく山の神に会うことが出来ても、その先に更にとんでもない試練が待ち受けていた。。

    チベットの主食である「ツァンパ」は、大麦を炒って粉にしたものに、お茶やバターを入れて捏ねて粘土状にしたもの。
    主食であったり携帯食であったりと、チベットの人々にとっては命の糧のような「ツァンパ」の原料の来歴を語るお話で、山アリ谷アリの冒険物語が、息もつかせぬほどの展開で繰り広げられる。

    神話のようでもあり、おとぎ話のようでもあり、日本画のような色調の美しい絵で、時間を忘れて読んでしまうこと受けあい。
    次々と襲いかかる試練を、王子はどのように乗り越えるのか。
    【人々の幸せのために】という、強い信念と理想は、ここまでひとを動かすのかと、心を揺さぶられる思いだ。

    読後の、なんとも言えない懐かしさはどこから来るのか、しばらく考えてみる。
    すると、子ども時代はこういうお話に満たされて過ごしたことを思い出す。
    ああ、なんて幸せなことだったろうと、今更にして。

    政治的には、中国の侵略によって実に悲惨なことになったチベットだが、民話や昔話というのは、貴重な文化遺産なのだと、この一冊を読んでそう思う。
    他山の石としながら、私も日本のお話を少しでも学んでいこうと思いなおす。

    • 後藤 仁さん
      私の作画絵本を熱心に読んで頂き誠に有難うございます。今後も良い「絵本」を手掛けていきたいと考えていますので、後藤 仁作品をよろしくお願い申し...
      私の作画絵本を熱心に読んで頂き誠に有難うございます。今後も良い「絵本」を手掛けていきたいと考えていますので、後藤 仁作品をよろしくお願い申し上げます。 日本画家・絵本画家 後藤 仁
      2014/02/04
    • nejidonさん
      後藤仁様、はじめまして。
      コメントありがとうございます!
      作画されたご本人にお気に入りに入れていただき、コメントまでいただいて、もう舞い...
      後藤仁様、はじめまして。
      コメントありがとうございます!
      作画されたご本人にお気に入りに入れていただき、コメントまでいただいて、もう舞い上がりそうです!

      今月、中学生たちにこの本を読みます。
      伝えたいことがしっかり伝わるように、そしてこの絵の美しさがちゃんと届くように、今猛練習中です。
      原画展にも、なんとか足を運びたいと考えております。
      お会い出来たら嬉しいです。
      でもきっと、お声をかけることも出来ないと思いますが(笑)
      素晴らしい作品に出会えて、私は幸せ者です。
      2014/02/04
  •  君島久子先生の文、後藤 仁の絵によって、岩波書店から出版された絵本です。2013年11月15日発行。〔ISBN 978-4-00-111242-9〕
     Internationale Jugendbibliothek München ミュンヘン国際児童図書館「The White Ravens 2014 国際推薦児童図書目録2014」に選定される。
     この絵本の出版は、岩波書店創立100周年、岩波の子どもの本創刊60周年を記念する出版事業の一環となります。文は中国文学・民話研究の第一人者である君島久子先生(国立民族学博物館名誉教授)によって過去に訳された「犬になった王子」(民話集『白いりゅう 黒いりゅう』所収、1964年、岩波書店)を、先生が絵本用に書き直されたもの。作画は私が日本画を用いて一年余りをかけて丹念に描きました。中国の少数民族・チベット族に伝わる民話を元にしており、原話の題名は「青稞(チンコウ)種子的来歴」です。 

    〔絵本のあらすじ〕
     穀物のない国の勇敢で心の優しい王子が、美しくて思いやりのある娘ゴマンの愛によって救われ、苦難の旅を乗り越え麦のタネを手に入れるまでを描く、壮大な冒険物語です。犬になった王子の姿は、気高くもかわいらしいです。宮崎駿「シュナの旅」(徳間書店)(のちにスタジオジブリのアニメ映画「ゲド戦記」の原案となる。)の原話にもなった名作を初絵本化。チベット族(チベット・中国四川省)の民話。 
      絵師(日本画家・絵本画家) 後藤 仁

  • チベットの人々の主食の材料となる大麦の来歴を語る民話。
    チベット プラ国のアチョ王子は、民を救うため、穀物の種を求めて苦難の旅に出る。蛇王の洞穴でやっと種を手に入れるが、見つかって、犬の姿にされてしまう。それでも王子は果敢に種を国に運び、心優しい娘ゴマンの愛の力で元の姿にもどり、2人は結ばれ、国は豊かになる。

    ストーリーに起伏があって面白く、君島久子氏の文章が味わい深いのは、この本の大きな魅力だが、私は、何と言っても日本画家後藤仁氏の画に惹かれる。凜々しい王子、清楚で美しいゴマン。丹念に描き込まれたチベットの風俗・自然。どのページも、そのままずっと眺めていたい美しさである。
    このような本格的な美しい日本画を、絵本の画として味わうことができるのは、子どもたちにとって幸せなことだと思う。この画の魅力が、やがて、チベットの人々や文化への、親しみや敬愛の気持ちを育てていくのではないだろうか。

    昨年3月、後藤氏の画による「ながいかみのむすめ チャンファメイ」(福音館書店 こどものとも684号)を書店で見て、目が釘付けになった。こんなに早く、氏の次の作品を手にすることができて、嬉しい。

    • 後藤 仁さん
      私の作画絵本を熱心に読んで頂き誠に有難うございます。今後も良い「絵本」を手掛けていきたいと考えていますので、後藤 仁作品をよろしくお願い申し...
      私の作画絵本を熱心に読んで頂き誠に有難うございます。今後も良い「絵本」を手掛けていきたいと考えていますので、後藤 仁作品をよろしくお願い申し上げます。 日本画家・絵本画家 後藤 仁
      2014/02/04
  • 『シュナの旅』の原話にあたるチベット民話。

    チベット・プラ国にアチョという名の王子がいた。
    プラ国にはヤクや羊の乳や肉のほか、食べものがなかった。
    山の神のところにおいしい穀物の種があるという言い伝えを聞いた王子は、その種を手に入れる旅に出ることにする。多くの家来を引き連れて出かけたものの、困難な旅路の間に家来は次々死んでしまい、残ったのは王子ただ1人。
    やっとの思いで山の神のところにたどり着いたが、山の神は種を持っているのは自分ではなく、蛇王だと告げる。蛇王は人間に種をくれることは決してなく、やってきた人間を犬に変えて食ってしまうという。
    それでもアチョの決心が固いことを見て取った山の神は、秘策を授け、1つの道具をくれる。そして、何があっても気を落とさず、東を目指せという。
    こころから愛してくれるむすめにであったとき、おまえはすくわれるだろう


    アチョは種を手に入れられるだろうか?
    こころから愛してくれるむすめには会えるだろうか?

    タイトル通り、アチョは蛇王に犬にされてしまう。けれども艱難辛苦の果て、物語は幸福な結末を迎える。
    そして、アチョの壮大な冒険は、チベットの広い地域に豊かな実りをもたらす。

    1964年に刊行された「白いりゅう 黒いりゅう」(岩波書店)に収録されるお話の1つを絵本とした。絵は日本画で、チベット各地を写生旅行し、その後、じっくりと作画したもの。民族色豊かで味わい深い。


    *蛇や龍が出てくる(龍の方はお話に実際には登場しないのですが、蛇王の親戚か友人の竜王というのがいるらしいです)ところが『モルドヴァ民話』をちょっと思い出させます。チベットとモルドヴァ、だいぶ離れているのですが、中央アジア経由でお話が伝わったりすることもあったんでしょうか。

    *アチョの生まれたのがプラ国、蛇王から逃れて向かう先がロウル地方、というのですが、現在だとどの辺を指すのか、いま一つよくわかりませんでした。現在のチベットの大きな都市と言えばラサですが、プラ国はあまり大きな国ではなさそうな印象です。9世紀半ば以降、いくつかの地方国家があった時代があるようなので、そうした国の1つであったのかもしれません。

    *ここでいう大麦は、青稞(チンコウ)麦(別名、裸麦)という大麦の一種で、これを粉にするとチベット人の主食のツァンパになります。

  • チベットの民話。
    絵が斬新ですが、君島久子さんの文章が鉄板なので、うまく融和されていたように思います。
    穀物の種は、昔とても貴重だったのでしょうね。

    • 後藤 仁さん
      拙作絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)をご覧いただき誠に有難うございます。今後とも後藤 仁作品をよろしくお願い申し上げます。...
      拙作絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)をご覧いただき誠に有難うございます。今後とも後藤 仁作品をよろしくお願い申し上げます。 日本画家・絵本画家 後藤 仁
      2014/02/11
  • 2014.1.5

    【経緯】
    図書館。

    【書き出し】
    大むかし。チベットのプラ国に、ゆうかんで、こころのやさしいアチョという王子がいました。

    【感想】
    •小学生のときの国語でスーホーの白い馬を読んだときの気持ちになった。
    •王子が男らしくていいな!
    •チベット民謡いいな!
    •踊りながら意中の殿方に果物を投げるって難しそう
    •選ばれなかったからって犬に投げたゴマンを笑った男の器の小ささ!
    •ごまんを引き立たせるためとはいえゾタンとハムツォの表情の描写がちょっと酷い

    • 後藤 仁さん
      私の作画絵本を熱心に読んで頂き誠に有難うございます。今後も良い「絵本」を手掛けていきたいと考えていますので、後藤 仁作品をよろしくお願い申し...
      私の作画絵本を熱心に読んで頂き誠に有難うございます。今後も良い「絵本」を手掛けていきたいと考えていますので、後藤 仁作品をよろしくお願い申し上げます。 日本画家・絵本画家 後藤 仁
      2014/02/04
  • チベットの民話。
    物語と絵の世界観がマッチしていて素敵でした。
    読む前は王子が犬になったままで終わるのかとドキドキしましたが
    ラストは物語にふさわしいハッピーエンドで楽しめました。

    • 後藤 仁さん
      紅茶さん。拙作絵本を読んで頂き、誠に有難うございます。来年1月から3月には、東京都心の大手書店、銀座教文館ナルニア国と丸善丸の内本店で「後藤...
      紅茶さん。拙作絵本を読んで頂き、誠に有難うございます。来年1月から3月には、東京都心の大手書店、銀座教文館ナルニア国と丸善丸の内本店で「後藤 仁 絵本原画展」も開催します。今後とも後藤 仁作品をよろしくお願い申し上げます。 日本画家・絵本画家 後藤 仁
      2013/12/10
  • 勇敢な冒険物語とロマンチックな恋物語の、ワクワクドキドキを一度に味わえる絵本でした。
    そして絵がとても美しいです。

    • 後藤 仁さん
      私の作画絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)をご覧いただき、誠にありがとうございます。現在、中国向けの絵本等を手掛けています。...
      私の作画絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)をご覧いただき、誠にありがとうございます。現在、中国向けの絵本等を手掛けています。今後とも、後藤 仁 絵本作品をよろしくお願いいたします。
      2021/04/27
  • 図書館で子どもと借りる本を探していて挿画のあまりの美男美女っぷりにふらふらと手に取りました。日本画の方なんですね。

    他の方のレビューで「シュナの旅」の原話、との記述を見て驚き。気づかなかった!

    • 後藤 仁さん
      拙作絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)をご覧いただき誠に有難うございます。絶世の美男美女を描きたいと思いました。今後とも後藤...
      拙作絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)をご覧いただき誠に有難うございます。絶世の美男美女を描きたいと思いました。今後とも後藤 仁 作品をよろしくお願い申し上げます。 日本画家・絵本画家 後藤 仁
      2015/06/15
  • 勇敢で心優しいアチョ王子は、国のために、おいしい穀物がなるという種を手に入れるため、九十九の山を越え、最後にはたった一人、蛇王から種を奪うも、犬にされてしまう。
    ここまででもじゅうぶんドラマチックな展開だけども、ここからさらに、ピンチの最中、山の神からもらった玉をのみ、犬になってしまう。。

    とっても美しい、恋の物語でした。

    • 後藤 仁さん
      拙作絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)をご覧いただき誠に有難うございます。現在、ちいさな駅美術館(和歌山県有田川町)で絵本原...
      拙作絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)をご覧いただき誠に有難うございます。現在、ちいさな駅美術館(和歌山県有田川町)で絵本原画展を開催中です。今後とも後藤 仁 作品をよろしくお願い申し上げます。 日本画家・絵本画家 後藤 仁
      2015/05/25
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著者プロフィール

君島久子 栃木県に生まれた。慶應義塾大学卒業、都立大学大学院修了。武蔵大学教授をへて、国立民族学博物館教授となる。中国民族学、文学を専攻、特に民間伝承および児童文学を研究。中国、東南アジア、日本を含めた広いアジア地域での比較研究をすすめている。1965年、『白いりゅう黒いりゅう』(岩波書店)、1983年、『中国の神話』(筑摩書房)で共にサンケイ児童出版文化賞を受賞。また1976年、『西遊記上・下』(福音館書店)で日本翻訳文化賞を受賞した。そのほか『ほしになったりゅうのきば』『たなばた』『しんせつなともだち』(福音館書店)、『チベットのものいう鳥』『王さまと九人のきょうだい』(岩波書店)、『アジアの民話』(講談社)、『月をかじる犬』(筑摩書房)など多数の著訳書がある。大阪府在住。

「2020年 『あかりの花 中国苗族民話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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