ペーパーボーイ (STAMP BOOKS)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001164114

感想・レビュー・書評

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  • 1959年、メンフィス。両親と住み込みの黒人家政婦マームと共に暮らす11歳の「ぼく」は、吃音に悩みながらも、夏休みの間友人の代わりに新聞配達をすることになった。配達はまだしも集金には苦労したが、ワージントンさんの奥さんの美しさやスピロさんの聡明さや気遣いに励まされる。そんな中、研ぐために廃品回収業者のR・Tに預けたナイフが、研ぎ賃とともに横領されてしまった。マームに打ち明けると、しばらく彼女は仕事を休み、傷だらけになって帰ってきた。

    大人へと成長する過程の少年の悩みと成長を、周囲の人々との関わりの中で描く回想録風フィクション。



    *******ここからはネタバレ*******

    吃音に悩み、年上の女性に憧れ、自らの出生に疑問を抱く少年の葛藤を鋭く表現する作品。
    スピロさんとの交流により、彼がより物事を深く考え、理解していく様子がとても心強い。

    半面、R・Tとの暴力的なやりとりは、この静かな物語の中では異質で、必要だったのか疑問が残るが、マームをはじめとする差別されたものたち独自の世界を描くためだったのでしょうか。
    米文学にはこういう描写が多いように思えるのは、それが日常だからなのか、これぐらいの刺激が求められているからなのか……?

    それほど難解な作品ではないが、内容から中学生以上が妥当でしょう。

  • 「勇敢なる旅人へ(中略)
     その日まで、きみはその類まれなる声をあげ詩作にはげむかたわら魂の四分割の意味を理解するよう努めたまえ。」

    舞台は1959年、アメリカ・メンフィス。
    主人公のぼくは自分の名前が嫌いだ。
    ぼくには吃音があり、蛇の呼吸で落ち着いてゆっくりしゃべらないとどもってしまう。
    pやbなど、発音しづらくどもりやすい文字がいくつかあるが、ぼくの名前は姓名ともに頭文字がその発音しにくいアルファベットからはじまる。だから嫌い。
    ぼくには吃音があるから、知的障害ではないかと馬鹿にされないために、ぼくの母は、ぼくの頭の優秀さを学校に認めてもらい飛び級させた。そうすれば知恵遅れの子だと思われずに済むから。
    さて、そんなぼくが唯一仲良くしてるアートことラットと野球をしている時、アートの顔面に豪速球をぶつけてしまう。
    そのお詫びにラットがおじいちゃんの農場に遊びに行っている七月の間、ぼくはラットの代わりにペーパーボーイ…郵便配達員をすることになった。
    ペーパーボーイとしてのぼくのこの一ヶ月は、さまざまな人たちと出会う一月であり、思いもよらない事件との出会いであり、また大切な人との別離の時であり、ぼくが成長するための一月でもあった…。

    冒頭に引用させていただいた文章は、とある心優しい賢人がぼくに宛てて書いた手紙のうちの抜粋。
    ネタバレ防止のため肝心なところを書いてなかったりするが、私の胸にもとても響いた、私にとっても何か宿題を出されたような気がして忘れたくなかったので記させていただいた。

    常にぼく視点で描かれるこの物語。
    大人になったと思しきぼくが、少年時代の一夏を思い起こしながらタイプしていく…
    ちなみに句読点が嫌いだから入れないというぼくの主張通りに、文章には一切句読点が打たれていない(確かそうだったと思う)。
    ぼくが吃音症であることから、それが元のぼくの成長が主題であると言えるが、それ以外の様々な問題や出来事について考えさせられる物語でもある。

    ぼくを理解し導いてくれる使用人のマーム(ミス・ネリー)は聡明で強い心の持ち主の黒人であるのだが、当時は黒人がバスに乗っても、白人のお供でなければバスの前方の座席には座れないなど黒人差別が今よりもずっとずっと色濃い時代。本書で起こるとある事件についても、黒人間で何か問題が起きても、内内のコミュニティで解決するしかない…また事件が起こった背景についても、それら差別に関する問題があるのだろうと思われる。
    マームを慕ってやまないぼくは、「どうして黒人は1人で動物園に入れないの?」などの質問を無邪気にし、マームは「それが決まりだからですよ」と簡潔に答える。マームの聡明さと賢明さから出るそれらのセリフに、胸がぐギュゥっとなる。

    他にも、訳者あとがきでも言及されてなかった気がするのだが、ぼくの家はマームを雇うくらいには裕福な家だろうと思われるが、親友のラットは十三歳で常に新聞配達をしていると思われる描写があるところを見ると、貧困世帯ほどではないが、あまり裕福でないのだろうというところも伺える。(ちなみに訳者あとがきも読み応えがあるので、物語を読み終わった後ぜひ読んでほしい。)

    他にも新聞配達をする先の何件かの家で、ぼくを思索の海に引き込み、成長の要素となる出会いを果たし、それらも様々な社会問題を思わせたりするのだが…

    自身が吃音症であり、新聞会社で働いていたという経歴を持つ著者による自伝的な要素のあるこの小説。
    それゆえか英語話者の吃音についての記述が、日本のそれと少し異なると思われ、知識としても勉強になった。
    ぼくという人間が成長してゆくのを見届ける物語であるが、最後までこの物語に寄り添っていくと、不思議とこちらまで何か力が湧いてくる、ぼくと一緒に大事なことを教えてもらえたと実感できる、そんな物語でもある。
    ティーンズ向けとのことだが、大人が読んでも得られるものは大きい。
    本当に、読んでよかった。
    長くまとまりのない感想になってしまったが、ぜひたくさんの人に読んでほしい。

  • アメリカのヤングアダルト小説

    まだ人種差別政策の残っていたミシシッピ州メンフィスが舞台。
    主人公は中学生になる手前の少年。仲の良い友人が夏の1ヶ月間、おじいちゃんの農場に行って不在になるので、その間だけ彼の代わりに新聞配達をすることになった。
    毎日新聞を配り、週に1回、集金もして回る。
    しかし、一つとても心配な事が。それは自分がちゃんと彼の代わりができるかどうか。なぜなら自分は吃音で、他人と会話するのが苦手だからだ。
    でも、勇気を出して新聞を配り始めると、そこで思いもかけない出会いと、事件が起き始める。

    既にジャーナリストを引退した作者自身も吃音で、自分の少年時代の経験を元にしてこの小説を書いたらしい。
    なによりも少年の一人称で語られる文体が繊細。
    いつも吃音の事を気にしながら、言いたい事を言うのをやめたり、言いにくい言葉を避けて、別の言葉を選ぶが故に結局言いたい事を伝えられなかったりという葛藤や、
    新聞配達をしながら、いつも喧嘩をして悲しそうな女性や、子どもがテレビばかり見ている家、近所を徘徊する怪しい浮浪者など、子どもの世界から一歩踏み出して大人の世界を覗き込もうとしている不安と期待、
    そして、少年が少しずつ成長していく姿が描かれる。
    ありきたりだが、一度しか訪れない、少年が大人への一歩を踏み出す「夏」の物語。

  • 読み終えて、本を抱きしめてしまった。
    ほんとうは主人公を抱きしめて、
    君はすばらしい人だね!この夏の出来事と、君が考えたことを、私にも教えてくれてありがとう!
    って、お礼を伝えたい!

    吃音の少年ヴィクターが、新聞配達をして過ごしたひと夏のものがたり。
    1959年の、まだ人種差別も色濃いメンフィスが舞台。

  • 吃音症の男の子のひと夏の話。
    とてもよかった
    人種差別の問題を子供の視点でさりげなく
    紛れ込ませているため、とても自然に入ってくる

    マームがとても好きになった。
    作者の自叙伝的作品ということで、
    奥さんの半端な出方とか、別れが唐突だったりとか、
    登場人物のあつかいに感傷的過ぎないのが
    リアルだった。

    大きく変わったわけではないが、確実な成長を描いていてとても良かった

  • 大切にしたいフレーズが散りばめられた、じーんとする本。スピロさんのような大人になりたい。
    句点のない文章なんて大変だったと思うけれど、名訳です…
    〈スピロさんの言葉〉
    (なぜぼくはふつうにしゃべれないのかときくヴィンスに)「なぜ六年生全員がきみのように強くてまっすぐな球を投げることができないのだろうか?」

  • 吃音の少年が友だちの代わりに1ヶ月新聞配達をすることになった。
    そこで出会った人々との交流が彼に与えた影響とは。
    次巻のコピーボーイも読みたくなりました。

    まだまだ黒人差別がある時代が舞台です。

  • 「1959年、メンフィス。ぼくは夏休みのあいだ、友達の代わりに新聞配達をすることになった。すぐどもるせいで人と話すのは緊張する。でもその夏は、思いもよらない個性的な人たちとの出会いと、そして事件が待っていた。」

    「吃音を抱えた少年が新聞配達で様々な人と出会い成長していく姿が少年の視点から描きだされる。-吃音であるがゆえの苦しみ、工夫や努力の数々に驚かされた。自身が吃音者である著者の子ども時代の経験がもとになっているだけに、吃音が「子ども時代にもっとも残酷な影響を与え、ちょうど世界がひらけて広がりはじめる時期に、その人を孤立させ、周囲を困惑させる存在」(作者覚書)となってしあうことがリアルに伝わってくる。しかし、新聞配達で出会った人々がメンフィスをひきつけ、もっとはなしたいという気持ちが芽生える」
    (『子どもの本から世界をみる』かどかわ出版』の紹介より)

    著者紹介
    〈ヴィンス・ヴォーター〉メンフィス生まれ。地元の『プレス・シミタール』社で新聞記者としてキャリアをスタート、40年余にわたってジャーナリストとして活躍。自身が吃音者であり、吃音症についての啓蒙活動も行う。

  • SL 2022.3.17-2022.3.20
    吃音の障害を持つ少年のひと夏の成長譚。
    作者の自伝的作品とのこと。
    さまざまな人たちとの出会いからいろんなことを吸収して成長していく主人公。彼はまだ子どもだけど、ものごとの本質を見抜く力がある。
    父親に対する彼の想いが素晴らしい。

  • 吃音の障害を持つ少年が、友人の夏期休暇の代わりに新聞配達を行い、さまざまな人と出会います。

    少年を理解してくれるお手伝いのマーム、魅力的なワージントンさん、物知りのスピロさん、この物語には、魅力的な人物がたくさん出てきて、少年に関わってくる。

    少年が困難に立ち向かい、少しずつ強く成長していくところが魅力的な作品。

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