シベリア抑留は「過去」なのか (岩波ブックレット)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (72ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784002708041

作品紹介・あらすじ

政治に翻弄され、司法に突き放されてきた戦争の犠牲者たち。戦後補償の観点からは画期的な「シベリア特措法」だが、課題はまだまだ残されている。抑留者の子や孫の世代にまで残る悲しみを見つめながら、歴代の政治・行政・報道の姿勢を問い、課題解決の可能性を探る。

感想・レビュー・書評

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  • 2010年の民衆党政権の下で成立した「シベリア特措法」が成立するまでの,シベリア抑留者達の日本政府との戦い(戦争被害者としての認定や補償の要求)を描いた一冊です。

    本書最大のキーワードは「受忍論」です。
    これは,「戦争というものは国の存亡にかかわる非常事態であり,全国民が多かれ少なかれその生命・身体・財産の犠牲を堪え忍ぶことを余儀なくされるものである。よってその損害は国民が等しく負担すべきものであり,その補償は憲法の予想しないところである」というような意味です。
    この「受忍論」に基づいて,大空襲などの被害者は国家による救済を受けていないわけですが,シベリア抑留者もここに該当します。
    毎日新聞の社員である著者は,かなりリベラル寄りの思想の方だと推測されます。よって本書では終始,この「受忍論」による国家や裁判所のジャッジを批判しています。

    しかし私は,著者の主張に深く同意することはできません。規格外の大きさの戦争被害を個別に手厚く補償するのには無理があるからです。「パンドラの箱」を開けたがらない歴代政府の考えも,ある意味ではやむを得ないものだと私は思います。
    著者はおそらく,「国家は,戦争による被害者全てに補償を行なえば良い」と考えているようなに感じられましたが,それは果たして,国家のみならず,被害者にとって良い政策といえるのでしょうか。それで国家運営の持続性が担保されるのでしょうか。

    戦争というものは「外交」手段の一つです。たとえ当時の国民が政治への関与が制限されていたとしても,戦争を選んだのは我らが政府であり,支持したのは我ら国民自身です。敗戦の責任を政府に押しつけ,国民が被害者として殊更に権利を主張することに,私はどうしても違和を覚えます。

    そのようなことを言うと,「お前はシベリア抑留者をないがしろにするのか!」というお叱りを受けるかもしれませんが,それは全く私の本意ではありません。
    抑留者が求めているのは,苦しい生活を強いられた自分たちの尊厳の回復なのだと思います。もちろん手厚い補償を受けることができれば喜ばしいことかもしれませんが,彼らが本当に望むのは銭金ではないことは明らかです。

    今を生きる我々ができることは,シベリア抑留者達の苛烈な生活について学び,歯を食いしばって生きてきた彼らを尊敬し,感謝することです。そして彼らの努力に報いるためにも,歴史を学び,この国の未来に責任を持つことです。

    私はどうしても,三波春夫さんの凜とした姿をシベリア抑留者の「鏡」として思い出してしまうのです。塗炭の苦しみを味わったであろう三波さんが国民に笑顔を振りまき続けたお姿からは,謝罪や賠償への拘泥のようなものは一切感じられませんでした。三波さんはきっと,自分の辛い青春を胸の内にしまい込み,この国の未来のことをひたすら思ってくれたのだと思います。

    繰り返しになりますが,我々はシベリア抑留者達の歴史を忘れてはなりません。学ぶことこそが,抑留者達に向けた最大の報恩になります。

  • <目次>
    第一章 「シベリア抑留」とはなにか
    第二章 シベリア特措法 六五年目の成立
    第三章 特措法の課題
    第四章 パンドラの箱
    第五章 遺族たちのシベリア抑留

  • シベリア抑留では日本人同士が叩きあった。だから長崎、広島、沖縄のような教育現場で取り上げられることが少ない。
    シベリアに抑留されていた韓国籍、台湾籍の人たちのフォローまではできていない。
    この問題は根深いし、犠牲者達が年を取りすぎてしまっている。政府は何をやってきたんだ。。

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著者プロフィール

1967年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒、同大学大学院修士課程修了(日本政治史)。1996年、毎日新聞社入社。2019年から専門記者(日本近現代史、戦後補償史)。著書に『戦艦大和 生還者たちの証言から』『シベリア抑留 未完の悲劇』(以上岩波新書)、『「昭和天皇実録」と戦争』(山川出版社)、『特攻 戦争と日本人』(中公新書)、『戦後補償裁判 民間人たちの終わらない「戦争」』(NHK出版新書)など多数。
2009年、第3回疋田桂一郎賞(新聞労連主催)、2018年第24回平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞(同基金主催)を受賞。

「2022年 『戦争の教訓』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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