黒い眼と茶色の目 (岩波文庫 緑 15-9)

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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003101599

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  • 2014/2/3読了。
    昨年のNHK大河ドラマ「八重の桜」の関連読書。ドラマ後半の主要登場人物として徳富蘇峰・蘆花兄弟が登場するが、弟の蘆花が八重の姪の久栄と恋愛事件を起こし、駆け落ちを企てるという話があった。後に蘆花がこの事件を中心とする同志社学生時代のことを回想し、私小説的に書いたというのが本書だ。
    もちろんドラマは美しく改変脚色されている。駆け落ち未遂のようなドラマチックな展開は実際にはなかったようだ。本書に書かれているのは、もっと惨めな、実に生々しく痛々しい、青春の挫折と敗北の顛末だった。失恋はその一部に過ぎない。相手の女性ではなく自意識に恋するような、恋愛と呼ぶことが出来るかどうかも怪しい身勝手な一人相撲で、それは結局、何と戦っているのか分からない青春の戦いの一局面に過ぎない。怠惰、傲慢、卑屈、無為、反抗、不安、盲信、虚勢、優柔不断、焦燥、自棄、そして逃避。あらゆる形を取って現れる、この正体不明の敵との格闘。
    青春の挫折と敗北、なんて言葉が今も生きているのか知らないが、ここに描かれているような感覚を僕自身も確かに嘗めた記憶がある。著者ほど手痛い敗北を一撃で喰らったわけではなく、小さな局地戦と撤退戦を勝ったり負けたりしながら徐々に退いてきて、敗北の自覚を持たずに済むような、戦い自体をなかったことにも出来そうな程度の負け方に落ち着いたつもりだったが、著者が京都を逃げ出す汽車から眺めた暗闇と似たようなものを、なんだか僕も見たことがあるような気がするのだ。

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