- Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003107195
作品紹介・あらすじ
生きる意味を見出せない青年は、田園の隠者となり、ひたすら自然の喚起する生命力を凝視する。倦怠と情熱、青春の危機、歓喜を官能的なまでに描いた浪漫文学の金字塔『田園の憂鬱』。佐藤春夫(1892-1964)が一躍脚光を浴びたデビュー作にして、文豪の代表作。大正文学の到来を告げた近代文学屈指の名作(解説=河野龍也)
感想・レビュー・書評
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妻と犬二匹と猫一匹を連れて田舎に移り住んだ青年。緻密な自然描写は絵画的という世間一般の評だが、過剰な自然の描き方に青年の自然に対する畏怖と不安を感じる。呑気な田舎生活かといえばそのようなわけでなく、犬二匹は夜中に吠え、隣家の鶏と戯れるため住人とトラブルになる。猫が狩ってきたカエルが畳の上に転がっている。鬱陶しい長雨が青年の気持ちを塞ぐ。妻は東京に帰りたいがために鬱々としている。と、何かと騒々しい。ランプに照らされた蛾が幻惑的に見える様子はよく言えば幻想的だが、生活の一部としては深夜の煩わしさ意外の何ものでもない。
この小説は売れない作家の行き詰まりを綴った著者自身の実体験なのか。その思うのが田園生活が続くなかで終盤にかけて青年に訪れる変化だろう。幻聴・幻覚に襲われたかのようにみえる描写はどこか不気味でホラーであった。
芸術家の田園生活の記録というほどほのぼのしておらず、悪意ある書き方をするとニート野郎の韜晦と不満と将来の不安を豊かな自然に仮託して書いた青春小説だった。まさに「憂鬱」が綴られた文章は読んでいるこちらも憂鬱となる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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少し早く書かれすぎた自意識の小説?
作者によれば1912年ごろ、横浜郊外、現在の都筑区あたりの農村で過ごしたという経験をもとにした作品。作中では何も事件が起こるわけではないが、言葉の世界の広がりが、次々と訪れながら強度を増していく幻影と幻聴が、その結果もたらされる現実と夢の混淆が、テクストの上で豊かな世界を展開していく。現実と幻想とが二重写しになっていることを自覚しながら、自分にとっては確かに現前する幻想のリアリティに心を奪われて行く「彼」のありようが詳しく描かれる。梶井基次郎の作品はここから生まれてきたのだ、という感を強くする。