二十四の瞳 (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003121214

感想・レビュー・書評

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  • 24歳は24なものを読もうということで誕生日に丸善で買った。
    が、10月に手にしてから1月まで読めずにいたのはなにも忙しかったからではない。戦争への怒りや悲しみを訴えるとする、表紙の謳い文句が重たく感じられ、億劫になった。
    できることなら戦争のことは耳にしたくない。どうせつらかったのでしょう、と思う。耳を塞いでしまう。朝ドラが戦争描写をすれば苦々しく画面を見やり、ニュースやワイドショーが微に入り細を穿って報じれば苛立たしく電源を断つ。ため息まじりに発する「戦争はよくない」は便利な終止符だ。感情がおだやかになるかわりに、思考も想像力もその場で完全に足踏みしてしまう。言うべき結論がそこに厳然と待ち構えている議論は怖い。イルミネーションはきれいで、青春は素晴らしく、海外の治安はどこも悪く、未来は暗く、本屋はオワコンで、浪人はつらく、孤独は脱却すべきで、飲み会は楽しく、共感は大切、歓喜の歌は最高で、戦争はよくない。そうなのかもしれない。しかし、そうやって一言に括ることで溢しているなにかがあるような気がする。完璧な結論のもつ火力では煮え切らない残滓があるから、忘れたようでずっと考えているし、考えたひとの足跡を辿ってしまう。戦争ひとつとってもどれだけの蔵書がわが家にあるだろう。どれだけの映画やドキュメンタリーを観ただろう。「怒り」「悲しみ」とひとくちに言っても、それを訴える肉体と思想と生活によって、またおのおのが二つずつ持つ「瞳」によって、まったく響きが違うのに、いつも驚かされる。わかりやすい情報にも崇高な結論にも還元しきれない、まだ聞けていない言葉に触れたくて、けっきょく、苦々しい顔で本を開く。

    知り合いのおじいさんは、戦争未亡人の母に育てられた五きょうだいの末っ子だと言っていた。芸術の調査の大義を掲げて彼と話していた私はそれをさほど重視しないどころか、漂白ないし無痛化して「大変な境遇にあったひと」と、さもなんでもないことかのように冷淡に聞いた。あのとき止めた想像がぎしぎし音を立てて動き出すのを、『二十四の瞳』を読みながら感じた。また、数年前に他界した私の曽祖父は戦時、二十代だった。戦争のことを聞かなくてはねと母と悠長に話しているうちに亡くなった彼は、生前「自分の道は自分で切り拓かにゃいかん」と述べていた。戦線へ徴発され落命していてもおかしくなかった運命とどのように対峙し、切り拓いていたのだろう。肉体という、曽祖父の一世紀にも及ぶ歴史に触れる手がかりが永久に失われたことがたまらなく惜しい。聞けば漂白、聞かなければ後悔、なんと不誠実なことか。『二十四の瞳』作中ひとりひとりの人生に目を凝らしていたはずが、いつの間にか知り合いや曽祖父のことへ軽々と想いが移ってしまっているのも、じれったい。たくさんの瞳が私と視線を交わしてはさっさと去っていく。ちいさな自分の手に余り溢れていくものをむざむざ見送ることの遣る瀬なさ…

    遣る瀬なさ、と書いて思い出すのは宇多田ヒカルの「桜流し」。
    「怖くたって目を逸らさない」ことが私が取り組める唯一のこと。

     もう二度と会えないなんて信じられない
     まだ何も伝えてない
     まだ何も伝えてない

     開いたばかりの花が散るのを
     見ていた木立の遣る瀬無きかな

     どんなに怖くたって目を逸らさないよ
     全ての終わりに愛があるなら

  • 小学校の先生になってみたくなった

    小学生の頃に読んだきりの本
    20年前の私はどう感じたんやろう

    大人になるまで沢山の選択肢の中で
    選べる自由が私にはあって
    お金にもご飯にも衣服にも困らず生きてきた

    今も何にも困らず生きてるけど
    今の私の幸福度は…。

    十二人のこの時代の離島の子供たち
    生まれたときから
    それぞれにそれぞれの少ない選択肢の中で
    疑いもせず
    疑ったところで抗えず

    純粋すぎて優しすぎて
    捨てれば良いものも捨てられず
    そんな選択肢すら誰も教えてくれず

    ささやかなささやかな幸せと
    恵まれていないことも恨まず生きていく

    死んだ方がましとまでは言わなくても
    死んでもそれほど惜しくない世界

    私も今死んでもそれほど惜しくなくて
    でもそれならこの十二人の子供たちのように
    先生のように生きてみたかった



  • ずいぶん昔(学生時代)に読んだので、電子書籍で見つけて懐かしくなり再読。記憶に残っていた部分以外があまりにも切なくなる話で、読んでいてシンドかった。(電子書籍)

  • 大戦期という怒濤の時代に生きる人々の苦悩と願いが描かれた一冊。私の年齢にも満たないあどけない子ども達が、逆らう事の出来ない不条理な運命を辿りながら、それでも自分を見失わず前を向いて生きる姿を前にして、読了後は自然と涙がでてしまった。
    当時の田舎の独特な人間関係や生活様式から生まれる、ちょっと変わった価値観がセリフや態度に垣間見えて、アホらしいというか、意固地というか、そんな類の可笑しさがあった。しかしそんな人も含めて微笑ましく、また愛らしいような、尊敬の念のようなものを抱いた。
    手元に残しておきたい一冊。

  • 瀬戸内の海辺の田舎町を舞台に若い女性教師と12人の教え子たちの戦前〜戦後の激動の人生を描いた作品。
    主人公の大石先生の目から見た戦争が描かれていて、一般市民の、特に女性、妻、母からみた戦争ってこういう感じだったんだと感じることができた。
    戦争中の話で、貧乏だったり、戦死したりと辛い話だが、なぜか読んだあと晴れ晴れした気持ちになる。
    大石先生や教え子たちの、敗戦しても生きていくしかないんだというあっけらかんとした気持ちがそうさせるのかもしれないな〜。

  • 寝る前の読書にするには切ない物語りだったけど、不思議と暗い気持ちにはならなかった。100年くらい前のことを追体験できるって物語りの力はすごいなぁ。また一人ひとりに想いをはせて読んでみたいと思う。

  • ふと懐かしくなって読んだ。

    映画を観たのも、子供向けの本を読んだのも小六か中一だから、文庫本で今回読んでみてその記憶力に我ながらびっくりした。よく覚えているものだ。あいかわらず涙なしには読めないのだが…。

    あらためて壺井栄は文章がこんなにうまかったのかと思う。物語として完成した美しさである。子供時代にこんないい本を読んでいたのか!だから感動が持続するのだろう。

    ユーモアたっぷりな泣ける物語の中にさりげなく、だが力強いメッセージがある。

    おなじ人間として生まれた命が、みんな同じように成長していかない運命の不平等さ。それを深く深く考える一人の女性、岬の分教場の12人の一年生を受け持ち教える先生。先生自身も子供たちに教えられ成長をとげ、強くなっていく。

    と書くと普通で面白みが無いようなんだが、そこがストリーテーラーの腕の見せ所、小豆島という背景と愛情とおかしみという味付けがすばらしいのだ。

  • “いっさいの人間らしさを犠牲にして人びとは生き、そして死んでいった”
    “一家そろっているということが、子どもに肩身せまい思いをさせるほど、どこの家庭も破壊されていた”
    戦争の中で十二人の生徒がそれぞれ懸命に生きる。その中での女性教師の怒り、悲しみ。
    伝えなくてはいけない1冊。

  • 話が短い上に登場人物が多く、内容が薄いのではないかと読む前は考えていた。しかしそんなことは全く無く、12人の子供一人一人の人生がそれぞれしっかりと描かれていた点が良かった。
    物語の前半と後半では雰囲気が全然違く、飽きることなくどんどんページをめくった。
    日本史が苦手なので時代背景などは掴みずらかったものの、非常に楽しめた作品だった。

  • 300ページに満たないこの薄い文庫には、周知の通り、瀬戸内の小さな島の太平洋戦争をはさむ二十数年が描かれる。庶民の目と声に語らせた強い反戦の思い、貧しい暮らしの中での小さな喜び、華美な描写を省いた短い文章と台詞がいかに生き生きと自然や人間を感じさせるか…伝わってくるこれらの点だけをとっても屈指の存在と思うが、加えてこれは過ぎゆく時間の物語でもある。
    去った時は戻らず、惜しんでも何もかもが指をすり抜けてこぼれていってしまう。地上に生きる人間に共通のこのテーマすら内包して、世界に誇るべき名作。読み継がなくてはー!

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著者プロフィール

1899年、香川県小豆島生まれ。1938年、処女作である「大根の葉」を発表後、「母のない子と子のない母」など、数多くの作品を執筆。1952年に発表された「二十四の瞳」は映画化され、小豆島の名を全国に知らしめた。1967年、気管支ぜんそくのため67歳で死亡

「2007年 『二十四の瞳』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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