- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003122211
作品紹介・あらすじ
欧州から帰朝した洋画家湯浅譲二は、毎日手紙を寄越す不思議な女に翻弄されるうちに、女は失踪。女の友人つゆ子と捜索の旅に出た彼はつゆ子に魅かれるが、さらに湯浅の絵のファンだという女学生が現れ……。深く誰か一人を愛するわけではない男と、男の愛を摑んだようで常に不安な女の姿を情感豊かに描く。(解説=尾形明子・山田詠美)
感想・レビュー・書評
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恋愛小説だと思いますが巻末にある通りホラー小説や推理小説と考えるほどに異質な作品でした。
読んでいて物語に夢中にさせられ、終始主人公が苛立つ場面で私もカッとなってしまいました。
昔の恋愛はあんなにも難しく、駆け落ちや心中といった今では珍しい事が平気であったりするのが興味深かったです。
作者である宇野千代さんも離婚を繰り返して恋愛とは何たるかを熟知している方なんだなとこの作品を通して知る事ができました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1933(昭和8)年から1935(昭和10)年にかけて「中央公論」に連載された宇野千代さんの小説。
巻末の解説を読むと、モデル小説というより人から聞いた体験談をほぼ完全にそのままなぞったプロットであるようだ。もちろん人名は変えてあるが、主人公の名前がなんと「湯浅譲二」。日本の現代音楽の領域では知らぬ者のない大御所作曲家と同名である。作曲家の湯浅さんは1929年生まれだから全くの偶然だ。
改行が異常に少ないのだが、実際に読んでみると文体は恐ろしく平易で、同時期の林芙美子作品よりもはるかに読みやすい。さほど濃密な描写もなく、読者はすらすらとストーリーを追うことになる。これが波瀾万丈な恋愛遍歴で、事実に基づいているというのは面白い。
妻子のある主人公は離婚する意志はあるものの養育費などの面で決着がついておらず、同居したままの状態だが、まったく好き勝手に出歩いて「色ごと」にふけっている。当時はそういうことがあり得たらしく、「重婚」の状態にもなったりする。しかし女性を獲物として扱うような軽さはなく、単に自分の(あまり激しくはない)情動やなりゆきに任せて放浪しているようである。
登場する「色ごと」の相手は3人の女性で、そのうちの真ん中の人が本命。しかし先方の家族との折り合いが付かない。3人目の女性と重婚するのだがこの人のフレンドリーな両親との交際が平穏な温かい家庭生活をイメージさせて主人公を魅了している。
心理描写は(たとえば林芙美子の作品よりも)淡泊なのだが、最後の方で2番目の女性と心中をもくろみるくだり、「なるほど、そういう心情であったか」と納得させられるように感じた。淡い恋心にフラフラと揺れるような心理が続いていたが、その淡さのうちに切迫した真摯さがあったのだと察せられた。
この時代の作品としては奇妙なまでの読みやすさで波乱に満ちたストーリーを楽しめ、さらに作家の淡々とした描写の積み重ねが意外と効果を発揮していると思った。良作。 -
日本文学読んだ~という感じ。実在した画家、東郷青児の自由奔放な恋愛、心中未遂を本人から聞き、それを宇野さんが小説にしたもの。大正昭和の初期でも自由な人は自由だったのだなと驚いた。まだ離婚していないのに別の女性と結婚式を挙げるが結ばれずに別れた女性から連絡があれば会いに行き心中を企てる。主人公の語り口で物語はドラマチックに進むが主人公から誠実さは感じられない。いいかげんな男。恋愛を芸の肥やしにするタイプか。展開が早く激しいので最後まで退屈せずに読了。
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著者:宇野千代(1897-1996、岩国市、小説家)
解説:山田詠美(1959-、板橋区、小説家)、尾形明子(1944-、東京都、文芸評論家) -
妻子ある画家との恋愛、駈落、心中……
画家の湯浅のどうしようもなさ、いい加減さ、どうしようもなさ(大事だから繰り返す)といったら、男ってやぁねぇ、としか言い様のない
湯浅が三人の女に翻弄されてるのか、それとも三人の女が魅了されるほどの男なのか
忘れちゃいけないのは湯浅の妻。流石強か