- Amazon.co.jp ・本 (112ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003242148
感想・レビュー・書評
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ワーグナー 「芸術と革命」論文集
表題の論文は面白い。総合芸術家のワーグナーの思想基盤が わかってきた。
イデオロギーや王政批判としての共和制というより、社会や人間のあり方としての共同体という感じ。ワーグナーの理想は ギリシャの自由精神であり、ギリシャの普遍的芸術?
アンチテーゼは キリスト教、資本主義。
革命家ワーグナーの本質
*革命思想=共和制=共同体社会
*芸術の理想=ギリシャ精神=個人の自由意志、普遍性
ワーグナーの革命思想=共和制
*存在するのは民衆だけ→民衆を代表する議院は一つ
*それぞれの活動を交換しあってお互いに豊かにする
*人間主義=自己の意志を人間の支配者とし、自己の欲望を人間の唯一の法則とし、自己の力を人間の財産とする
ワーグナーが総合芸術を目指す理由
「活動の律動、永遠の調和としての神々と人間の行為、悲しみと歓喜〜劇において完全に再現する。そこに躍動するものは、観衆においても躍動すると等しく〜あらゆるものを肉体的にも精神的にも実際に見る。もはや空想の力を借りて想像する必要がない」
真の芸術とは
*最高の自由〜最高の自由だけが自己から芸術を表現できる
*芸術は それ自体を楽しみ、生存を楽しみ、普遍性を楽しむ
*芸術は 自己や自然と調和して〜感覚的に美しく発展した活動
*人間は 感覚的世界からだけ芸術作品を作ろうと思う
ギリシャ精神における人間観と芸術
*神が人間を創ったのは地上で喜ばしい自覚した生活をするため
*人間が自分自身に対する喜びから芸術を創り出すことができた
*世界の完全の調和のある統一の表現としての芸術
アンチテーゼとしてのキリスト思想
*自己蔑視、生存嫌悪、普遍性への恐怖〜の表現物は芸術でなく、キリスト教である
*神が人間を創ったのは、地上の牢獄に人間を閉じ込め、自己蔑視の報酬として 死後に安楽を与えるため
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共和主義の運動は王権にたいしていかなる関係にたつか
人間と現在の社会
革命
芸術と革命
「芸術と革命」のために -
「共和主義の運動は王権にたいしていかなる関係にたつか」「人間と現在の社会」「革命」「芸術と革命」「『芸術と革命』のために」の5編を収録。最初の3編は革命期に書かれたアジテーション風の小文で、論文「芸術と革命」が本書の目玉である。「『芸術と革命』のために」はメモみたいなものだろう。
「芸術と革命」は1849年に亡命先のチューリヒで書かれた。ワーグナーにとって、芸術のあるべき姿は古代ギリシャに見出される。自由でのびやかな人間の本来性を称揚し、共同体の理念を確認する契機としての総合芸術がそれである。そのような共同性・総合性はしかし、現世主義的・物質主義的なローマ人たちの関心を引くものではなかった。芸術の本来を忘れ、享楽に走ったローマ人の精神には空虚な隙間が生まれ、その埋め合わせとしてキリスト教が招き入れられる。人間の原罪性を強調するキリスト教のもとでは、古代ギリシャ的な芸術精神への抑圧は不可避であった。しかしいまや、人々はその抑圧を脱しつつある。いまこそ、芸術本来の姿を取り戻す時ではないか……。
本論文で示されるワーグナーの歴史観はだいたいこんな感じだと思う。ワーグナーの同時代観察によれば、この芸術復興プロジェクトにおける最大の障害は資本主義である。ワーグナーは言う。「ギリシャの公衆芸術はまさしく芸術であったが、われわれのそれは――芸術的手工業である」。芸術的衝動と報酬の両立は、今日に至るまで芸術家たちの悩みの種であるが、ワーグナーは芸術の本来性を守るためにそれを資本主義の圏域から隔離すべきだと考えていたようである。
なお、本書は1953年に刊行されたものの復刊であり、全編正字使用である(仮名遣いは新式だが)。文体も、格調高いとはいえるが、まぁ古臭いものだ。基本的にワーグナーの芸術作品に関心がある人だけが読めばよいと思う。 -
現在使われている「啓蒙」という言葉の軽薄さを思い知らされる本だった。
ドイツ啓蒙主義時代の傑作、それは、絶望、閉塞からの希求の叫びだ。