美しい夏 (岩波文庫 赤 714-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003271421

作品紹介・あらすじ

都会で働く一六歳のジーニアと一九歳のアメーリア。二人の女の孤独な青春を描いた本書は、ファシズム体制下の一九四〇年、著者三一歳の作品。四九年にようやく刊行され、翌年イタリア最高の文学賞ストレーガ賞を受賞。

感想・レビュー・書評

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  • ツイッターで三秋縋さんが紹介されていて気になって買った本シリーズ。三秋縋さんの感性に絶対の信頼を寄せているので、何を読んでいるのか分かるや否や躊躇なく飛びついちゃう。
    大嫌いな夏を乗り切るためには、こんな風に夏を乗り切るための小説を山ほど用意するに限るのだ。

    「あのころはいつもお祭りだった。」
    都会で働く16歳のジーニアと、19歳のアメーリア。子供ではない。でもまだ大人でもない。青春の途上で若さと熱を持て余した2人の女のひと夏のストーリーが、カラッとした筆致ながらもじっとりと気怠く書かれている。
    画家の前でヌードモデルをするか、しないか。なんだかその経験がこの小説での重要なキーワードの一つになっているような気がする。
    「色は太陽からやってきた、夜にはそれがなくなるから」という一文が素敵だ。こんな一文を序盤にポンっと置いてしまうなんてすごい。
    そしてグィードという彼氏ができてからのジーニアが、脇の下を洗って香水を振りながら、「自分は男たちを愛することが何かを知った」と満足げに思う姿もいじらしくって好きだな。ジーニアは、3つ年上のアメーリアが3年分先にすすんでいる青春に必死に追いつこうとしている。

    **
    こうして彼女の恋のほんとうの生活がはじまった。なぜなら、グィードと裸になっている姿を見てしまったいまでは、すべてがちがって彼女には見えたから。いまはもう新妻と同じで、しかも独りだったから、彼女を見つめたときの、彼の目を思い出すだけで、もはや自分が独りでないと感じられた。
    《結婚するというのは、こういうことなのね》ママもこういうふうにしたのかしら。しかし彼女には、この世のなかのほかの誰かが、自分と同じあの勇気をもっていたとはどうしても思えなかった。どんな女も、どんな娘も、自分がグィードを見たように、裸の男を見たはずがなかった。あんなことが二度起こるわけがない。
    **

    初体験を済ませたジーニアの心情の機微をひとすじも逃さない、あまりにも強烈で鮮やかな文章。
    男性の前ではじめて裸になる、ということがどれほど恐ろしく勇気のあることだったか、と思い出した。それを乗り越えてからの、自分はもう一人ではないのだ、という心強さと多幸感も。まるで山田詠美と村田沙耶香の小説の私が好きな部分を凝縮して煮詰めたみたい。
    とにかくすごい小説。

  • twitterか何かで見たので、いつものジャケ買いではありません。あらすじを見た感じでは何かもっと甘酸っぱい感じを想像してたのですが、思いの外重たい大人の入り口でした。イタリアではこれが普通かつ甘酸っぱい話なのかな…

  • 女の子が大人の女に変貌して行くとき、男性との愛に変性させられて行く部分と、同性の友人と交わり評価されたり批判されたりすることで大人になっていく部分があると思うのですが、この作品は後者の部分に大きくポイントをおいていると思います。

    二人の少女たちは、互いに厳しい生活環境の中で生きていますが、互いを品定めするのじゃなく、相手の愛おしくも弱い部分に、冒頭からいたわりと鋭い直感を働かせていることが、この作品をいいものにしています。

    青春の息吹は瑞々しく、冒頭の1ページだけで作品に引きこまれ、繊細なのに乾いた文章が、少女たちのこころの乾きと、潤いを際立たせて印象的です。戦時下のファシズムの国家にあってなお、叙情性を失わなかったイタリアの芸術。この作品もその代表なのでしょうね。

    愚かで熱く、通り過ぎれば二度と同じ夏はない。
    寂しい季節。

    夏。

    青春と呼ばれる人生の夏はかくも美しいのか。

    長い女友達の打ち明け話を、しんとした部屋でささやき交わしながら聴き終えたような。語られ終えたあとのひんやりした空気が、本を閉じるとやって来ます。

  • 書き出しの「あのころはいつもお祭りだった。」から引き込まれた。「何もかも美しくて、特に夜にはそうだった」は学生の頃少しだけ門限を破って遊ぶ時間を思い出したし、「あなたたちは元気だから、若いから、苦労がないから」という言葉をわかる年齢になってしまった。
    大人になるための手段や、大人になったという価値観は人それぞれで何も間違いではない。でも自分の中でよく考えて選んだものだとしても、こんなもんかという気持ちや後悔だったりが浮かぶ。少し自分の生活と比べて辛くなった。
    描写はとても綺麗だった。端から端まで美しかった。

  • 甘酸っぱい青春の話かと思いきやなかなかシビア。

    嗚呼セピア色の青い季節よ。

  • 少女が大人へ変身していく過程。本作の表現がどれほどリアルなのか、私には想像するしかないのだけれど、繊細にかつ丁寧に描かれていることは伝わってくる。
    煌びやかなだけではない青春の、憧れ、焦り、戸惑いなど複雑な感情を流し漉いたような作品。

  • 青春と夏、、儀式的なものである。

  • ファシズム政権下のイタリアで執筆され、戦後著者の死後に発表された作品。都会に暮らすジーニアとアメーリア。3つ年上のアメーリアの後を追うようなジーニアの生活。おしゃれだけど、なんだか退廃的。

  • 私の読解力や感性が足りないのか本編を読み終わった段階では、それほど印象に残らないような話だと思っていた。でも解説を読んで考えが変わった。私自身もジーニアやアメーリアと同じだ。彼女達に強く共感し、愛しく思えて、互いに失った日々に哀愁を感じる。80年前に今の私と同じ歳の男性の作者が書いてる事に驚く。

  • 二度と戻らない青春の時間に、それが過ぎ去った後の時間を重ね合わせたような小説。たしかに、美しい。

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