幽霊 (岩波文庫 赤 750-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (163ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003275047

作品紹介・あらすじ

原タイトル: Gengangere

感想・レビュー・書評

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  • サヴォアール・ヴィーヴルとは、"生きるために必要な教養を学ぶ"という意味のフランス語
    >奥さん、世の中には、他人の判断を当てにしなくちゃならない場合がたくさんあります。世間とはそうしたもので、それでこそ万事がうまくいくんです。でなければ、この社会はどうなります?
    >およそこの世で幸福に暮らしたいと望むのは、それこそ反逆精神というものです。幸福になるどんな権利がわれわれ人間にありますか? ありませんよ、あるのは義務です、われわれの果たすべき、ね、奥さん! だから、あなたにも義務が
    あった、あなたが夫と選んだ人にぴったりとくっついて、そして、神聖な絆でもって、あなたがその人にしっかりと結ばれているという、ね。
    >それにどうも、 そういう気がしましてね、われわれはみんな幽霊じゃないかって、先生、わたしたち一人一人が。わたしたちには取りついているんですよ、 父親や母親から遺伝したものが。でも、それだけじゃありませんわ、あらゆる種類の減び去った古い思想、さまざまな減び去った古い信仰、そういうものも、わたしたちには取りついていましてね。そういうものが、わたしたちの中には現に生きているわけではなく、ただそこにしがみついているだけなのに、それがわたしたちには追っ払えないんですもの。
    >それだけなの! お前のお父さまなのよ!
    (いらいらして)ああ、お父さんーーお父さん。お父さんのことなんか、僕は何も知らないんだ。覚えているのは、いつか僕を死ぬような目にあわせたことがあるってことだけですよ。
    ひどいことを言うのね! 子供というものは、たとえどんなことがあろうと、父親を慕うのが当然じゃないのかね?
    たとえその父親に感謝することが、子供に何もなくてもですか? その人を、全然、子供が知らなくても? そんな古い迷信を、母さんはまだ本当に信じてるの? ほかのことでは、あんなによく話のわかる母さんが?
    ただの迷信だろうかねーー!
    そうですよ、決まってるじゃありませんか。そんなことは、単に世間でそう言ってるだけのことでーー
    幽霊ね!
    >そうだよ、 そうだとも、オスヴァル! 本当にわたし、お前を家へ帰らせてくれた病気に感謝したかったくらいよ。 お前がまだ完全にわたしのものになってないのはわかってるわ、もっとお前を、わたしのものにしなくちゃね。

    ラスト、朝日に輝く氷河と山の峰峰と惨状の対比

    ノートより
    >現代の女性たちは、娘としても、姉妹としても、妻としても正当に扱われず、彼女たちの才能に応じた教育もされていない。その天職に従っていくことは禁じられて、その遺産相続も取り上げられ、苦い思いをさせられているーーこういう者たちが新しい世代の母親となっていくのだ。その結果は、いったい、どうなる?
    >『幽霊』は結婚の神聖や、息子が父親を尊敬する義務というような、その時代の最も聖なる原則のあるものを攻撃しているばかりか、性病にまで言及している。また自由恋愛を擁護し、場合によっては近親相姦まで正当化しようとほのめかしている。イプセンのもっとも強い支持者たちも、戯曲としての善し悪しより、イプセンのそういう思想に反発し、眉をひそめた。
    >『幽霊』は、特に作劇術の点において、よくソポクレスの『オイディプス王』に比較される。しかし、劇の分析手法は、『オイディブス王』と似ているようでまったく違う。『オイディプス王』の「過去」はすべて劇がはじまる以前のことで、その「過去」を明らかにすることだけが劇行動を形成している。ところが『幽霊』では、「過去」は劇のはじまる前の話が基礎にはなっているが、その「過去」を明らかにするだけですんではいない。ドラマの中心をなす回転軸は、むしろその「過去」にあり、「過去」を葬り去ろうとするアルヴィング夫人の試みの中にあるので、急進主義的でありながら、同時に因襲的な感情がいつも奇妙にその中に混っている夫人の「あいまいさ」、「卑怯さ」が、いかに危険なものであるかをわれわれに示すのが狙いである。

  • 初っ端から牧師にムカムカし過ぎて頭に血がのぼる。

    登場人物の中で誰よりも俗物的に描かれているのが、聖職者という人々を導く立場の人間だ。それによって、古くからのしきたりや価値観を疑いなく正しいものとして守り続けていくことは、権威ある者による強迫観念の植えつけに他ならないと感じる。

    『人形の家』をはじめ、時代もさることながら、男性であるイプセンがこういった戯曲を書き上げたのは驚きだが、男性だからこそ書けたし、また公の場で発表できたのではないかとも思える。

  • イプセンをきちんと読んだのは初めてだけど、よく読むチェーホフと比較してしまう。チェーホフの“奥様”よりは、今どきなかんじで、労働者や働くことへの偏見はない。目に見えないしがらみや習慣や世間体を“幽霊”と評して、とりつかれてる、という表現になることになんか、納得。

  • どこでどの時代に生まれ育ったか、それはどんな環境だったか、その一つ一つが人格形成に影響する。そしてそれは、振り払おうとしても、なかなか振り払えるものではない。いわゆる「常識」と呼ばれるもの。各個人の中にある常識の数が少ないだけ、より自由であると言えるだろう。一体、常識とは何であったか。重んじるべきものと思い込み、実行する。しかしそれは本当に、重んじるべきものなのか。
    女性の自立に意識的なアルヴィング夫人でさえ、息子オスヴァルに対しては因習的な態度をとり、オスヴァルは自分の全く与り知らないところで起こった父親の淫蕩の報いを受ける。歴史も、血も、繋がっている。
    常識を断ち切ることは可能か、否か。正気を失わなければ「太陽」を求めることが出来ないのか。しかし、常識は足枷。それを断ち切り、自由になりたいのだ。

  • 人形の家より先にこれを読んだ。
    イプセンをもっと読んで行きたいと思った、が、絶版多い…

  • 放蕩人生を尽くした夫に悩まされ続けたアルヴィング夫人は、夫から遠ざけて外国で育てたはずの息子に夫と同じ「幽霊」を見る。
    「人形の家」と同じく、結婚の名のもとに女性が金で買われる当時の現実を前提にした女性の自立がその底にあるが、テーマとしては「人形の家」よりも薄くぼやかして描かれている。
    燃え落ちる孤児院、自らの出生を知って屋敷を出ていくメイド、それでも挫けないアルヴィング夫人の前でオスヴァルは言う、「自分を殺してくれ」と。
    親の放蕩癖が子供に遺伝する、それならばいくらでも救いようはあるだろう。
    だが親の罪は子が償わなければならない、それこそが逃げようもない因習の幽霊だったとするならば、生きる喜びはただ理念だけのものでしかないのではないか?

  • とても面白かった。ポイントは過去のことがそのまま現実を乱しているということ。乱しているのは現代の人間だということ。横溝正史臭がする。

  • 2007/12/09

  • 2006夏の重版で買ったよ〜

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